インパクト

 非営利組織は、単に公益活動を提供する主体ではなく、何らかの社会変革を生み出すことを目的としている。そのため、非営利組織が生み出す社会的価値は多種多様であり、その成果を測定することは容易ではない。しかし、その一方で、公益を担う存在としての説明責任を果たし、寄付やボランティア等の支援を幅広く受けるために、非営利組織が生み出した成果を分かりやすくみせる、ということに対する社会からのニーズが高まっている。従来、公益活動の成果は、その目標が達成されたかどうかというアウトカムによって評価すべきと考えられてきた。すなわち、活動を実施するために必要な資源としてインプットを投入し、活動量としてのアウトプットを産出するが、それによってどのような社会的価値が生み出されたか、というアウトカムが重要ということになる。しかし、非営利組織が生み出す社会的価値には、人々の意識変化や多様な主体の連携など形のない成果が含まれており、また中長期にわたってさまざまな波及効果が生じるため、アウトカムを直接的に測定することは非常に難しく、非営利組織の活動に関する評価がなかなか普及しないという状況があった。それに対して、近年ではアウトカムを直接的に把握するのではなく、活動と成果との間にある因果関係に着目しながら、非営利組織の活動が個人や社会にもたらした社会的、経済的あるいは環境的な変化として成果を捉える、インパクトという考え方が導入されるようになった。ただし、インパクトの概念は、社会的インパクト投資、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable DevelopmentGoals)や企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)、あるいは公共調達における成果測定など、非営利セクターを取り巻くさまざまな領域で取り入れられているが、その意味合いはそれぞれ微妙に異なっている。そのため、インパクトを評価する方法についても、impact evaluation、impact assessment、impact measurementなど、さまざまなツールが提案されている。これらの多様なインパクトに共通する考え方として、インパクトとは影響や変化ということを意味しており、活動によって個人や社会に生じた効果を、定性的あるいは定量的な変化として把握することが重視されている。そして、このような変化を測定するための手法として、ランダム化比較試験(RCT:RandomizedControlled Trial)やコホート分析が、公益活動の分野にも広く用いられるようになってきた。このようにインパクトは、非営利組織が生み出す成果を包括的、網羅的にあらわすものではないが、活動と成果との間にある因果関係を可視化し、何らかの根拠(エビデンス)に基づいて利害関係者に説明することが可能になる、という点で有用性が認められている。
(馬場英朗)