インセンティブシステム

 組織に所属するものの動機づけにより働く意欲や目標をもたせ、組織の業績や目標を達成するための貢献意欲を促すものである。このインセンティブは大きくハード面でのインセンティブとソフト面でのインセンティブに分けられる。Maslow, A. H.(マズロー)(1943)は「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」ものとし、欲求を5つの階層(生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求)に分類し、Herzberg, F.(ハーズバーグ)(1959)は「二要因理論」において動機づけについて特定要因が動機づけに影響を及ぼすのではなく、達成することや承認されることでえられる満足は欠いている場合でも満足には影響しない「動機づけ要因」を説明した。Barnard, C. I.( バーナード)(1938)は公式組織を「2人以上の人々の意識的に調整された活動や諸力の体系」と定義し、その成立には①コミュニケーション、②貢献意欲、③共通目的の3つの要素を示し、これら要素は相互依存関係にあると述べた。コミュニケーション、貢献意欲、共有目的の3要素が成立する協働意欲の確保のためには、構成員に対し、貢献をもたらす誘因(インセンティブ)が等しい、もしくは、大きく供与にすることによって組織が均衡(誘因≧貢献)する「組織均衡論」を用いた。ハード面のインセンティブは①給与等の経済的な報酬による物質的インセンティブ、②組織が個人を評価する人事評価制度やそれを賃金に影響を及ぼす評価的インセンティブであり物質的な報酬がある。ソフト面でのインセンティブは良好な人間関係から発生する人的インセンティブ、組織の理念や方針に価値観や使命を源泉とする理念的インセンティブ、組織が権限から権限を委譲され自己実現の機会を与えることでえられる自己実現的インセンティブといった個人の動機づけを喚起するためインセンティブ(誘因)を与える仕組みである。 非営利組織は、営利を目的とせずミッションを果たすために存在する組織である。そのため、組織への貢献意欲を高めるために、貢献という名の自己開発がインセンティブ(誘因)となる。このことからも非営利組織におけるインセンティブシステムは、人的、理念的および自己実現的のソフト面でのインセンティブが構成員の満足度にも直結する。当然、ハード面でのインセンティブは軽視できないが、かぎられた資源のなかで物質的なインセンティブよりも評価的インセンティブによる自己実現に重きが置かれる傾向にある。人は、このようにインセンティブシステムにより組織に対して貢献をしようとする意識を醸成する。
(齋藤 渉)