医療保険制度

 医療機関の受診により発生した医療費について、その一部または全部を保険者が給付する保険制度のことである。被保険者側の立場からみた場合、発生した医療費の負担に伴う貧困予防や生活安定に資するようとならぬよう負担額の上限額について定めが設けられている。また、保険者側の立場からみた場合、保険金支給額の増加による保険財政の圧迫を防ぐため、自己負担割合に係る定めや保障範囲に制限が設けられている。医療保険については、強制加入となる公的医療保険と、任意加入となる私的医療保険に分類される。このうち、公的医療保険は、あらかじめ被保険者の範囲が行政によって定められている医療保障制度であるが、制度内容については、国より対象者や財源方式が異なる。日本における公的医療保険は、医療保険の被保険者が保険料を出し合い、病気やけがの場合に安心して医療が受けられるようにする相互扶助の精神に基づくものとして、すべての国民を何らかの医療保険に加入させる制度、いわゆる国民皆保険が特徴である。日本における公的医療保険は、大きく職域保険と地域保険に分類される。このうち、職域保険は、健康保険法(会社員)、国家公務員共済組合法(国家公務員)、地方公務員等共済組合法(地方公務員)、私立学校教職員共済法(私立学校教職員)、船員保険法(船員)等を根拠法とする、会社員、公務員、船員とその扶養家族を対象とする社会保険のことであり、被用者保険とも呼ばれる。一方、地域保険は、国民健康保険法を根拠法とする、自営業者、農林水産業者、無職者など、職域保険に加入していない人を対象とする社会保険のことで、国民健康保険を指す。
 職域保険は、当初、工場労働者に対する制度として設けられたものであり、その後順次対象範囲が拡大されてきた。企業等における組合の有無により区分があり、そのうち組合管掌健康保険(組合健保)は、企業や企業グループ(単一組合)、同種同業の企業(総合組合)、一部の地方自治体(都市健保)で構成される健康保険組合が運営している社会保険のことである。また、全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)は、健康保険組合をもたない企業の従業員で構成される。平成20(2008)年9月までは社会保険庁が政府管掌健康保険(政管健保)として運営していたが、現在は全国健康保険協会が運営している。 地域保険は、農民の救済を目的に昭和13(1938)年制定した国民健康保険法(旧国保法)を起源とし、当初は設立・加入ともに任意であったが、昭和23(1948)年以降、運営主体と強制加入への以降が順次実施されることとなり、昭和36(1961)年の国民健康保険法の改正によって全国民をカバーした国民皆保険が成立した。事業は各都道府県の国民健康保険団体連合会(国保連)が運営している(統括組織は国民健康保険中央会)。ただし、国民皆保険成立後、所得が高く医療費の低い現役世代は被用者保険に多く加入する一方、退職して所得が下がり医療費が高い高齢期になると国民健康保険に加入するといった構造的な課題があるなか、1970年代以降は、高齢化社会の到来や保険財政の圧迫もあり、昭和48(1973)年の老人医療費無償化導入(廃止)、昭和58(1983)年の老人保健制度の施行(廃止)、昭和59(1984)年の退職者給付制度の創設(廃止)、平成9(1997)年以降の健康保険法等の継続的な改正による老人保健拠出金の対象年齢や、国庫負担金の段階的引き上げを実施してきた。しかしながら、社会保障制度の持続に際し、さらなる制度改正が必要となったため、平成20年度に後期高齢者医療制度を創設した。75歳以上について現役世代からの支援金と公費で約9割を賄うとともに、65〜74歳について保険者間の財政調整を行う仕組みを構築した。
(上村知宏)