医療法人(社団・財団)

 医療法39Ⅰに基づく法人である。病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所または介護老人保健施設を開設しようとする社団・財団である。医療施設においては、医療法7Ⅰにて、医師(病院および診療所)、歯科医師(歯科診療所)、助産師(助産所)において、病院以外の医療施設において無資格者が開設する場合の許可が規定されているほか、同法7の6には、「営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては、第4項の規定にかかわらず、第1項の許可を与えないことができる。」と規定されており、非営利性が求められている。しかしながら、医療施設においては、開設主体の多様性があったものの、私人に対する法人格取得の手段がなく、資金獲得による経営安定化や整備推進を図ることが求められていたことから、新たな法人格として昭和25(1950)年の医療法改正により設立された。医療法人においては、同法40の2において、「医療法人は、自主的にその運営基盤の強化を図るとともに、その提供する医療の質の向上及びその運営の透明性の確保を図り、その地域における医療の重要な担い手としての役割を積極的にはたすよう努めなければならない。」とあるとおり、透明性や非営利性を確保した運営が求められている。このため、営利目的とならぬよう、同法54における剰余金の配当禁止、同法42における業務内容の範囲が定められている(社会医療法人にあっては同法42Ⅱ)。また、透明性の確保として、同法52に基づき、事業報告書等(事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者との取引の状況等)および監事の監査報告書(社会医療法人および一定の収益・負債規模の法人にあっては公認会計士または監査法人の監査報告書)等を毎会計年度終了後3か月以内に都道府県知事に届出を行うとともに、同法51の3における事業報告書等(貸借対照表および損益計算書に限る。)の公告、同法51の4における事業報告書等の社員もしくは評議員または債権者から請求があった場合の閲覧を実施することとしている。なお、都道府県においても、同法52の2により、定款もしくは寄附行為とともに閲覧に供することとしている。運営面においても、医療法人社団においては、社員を構成員とした社員総会が最高意思決定機関となり、理事の選任等を行う。社員総会で選任された理事で構成する理事会で理事長を選任し、理事長が法人代表者となり、医療法人の経営を行う。一方、医療法人財団の場合、社員総会はないが、評議員で構成される評議員会を置かなければならない(同法46の2Ⅱ)。役員は評議員会によって選任される。理事会が最高意思決定機関となるが、理事長は、医療法で定める事柄や重要な事項として寄附行為で定める事項を行う前に評議員会の意見を聴かなければならない(同法46の4の5)。また、役員構成についても、理事3人以上および監事1人以上を置かなければならない(同法46の5Ⅰ)ほか、代表者たる理事長は、原則として医師または歯科医師でなければならない(同法46の6Ⅰ)。また、開設する管理者を原則として理事に加えなければならず(同法46の5Ⅵ)、結果、管理者が理事長を務めることが多い。
 なお、法人類型として特別医療法人が存在していた。特別医療法人とは、開設する医療施設の業務に支障のない範囲で、その収益を医療施設の経営に充てることを目的として、厚生労働大臣の定める収益事業を行うことができるものとして創設された制度であるが、従来公立病院等が担っていた医療を民間の医療法人が積極的に担うよう推進することを目的とした社会医療法人制度の創設に併せて、新規認可は行われず、平成26(2014)年に廃止された。また、社会医療法人は、「救急医療等確保事業の実施に資するため」社会医療法人債を発行することができる(同法54の2)。社会医療法人債は金融商品取引法2に規定する有価証券に該当する。発行にあたっては、都道府県知事の許可は不要であるが、医療法で準用する会社法の規定などに基づいて実施することや、刑罰規定も設けられている(同法77など)。
 表は、おもな医療法人制度の改正に係る変遷を記載する。
(上村知宏)
 
改正 医療法人制度に係るおもな改正
医療法改正(1950年) 医療法人制度の創設
第1次医療法改正(1985年) 1人医師医療法人制度の創設(診療所への対応)
第2次医療法改正(1992年) 医療法人の附帯業務に疾病予防運動施設等を追加
第3次医療法改正(1997年) 特別医療法人制度の創設 附帯業務の拡大(第2種社会福祉事業にまで拡大)
第5次医療法改正(2006年) 社会医療法人制度の創設 医療法人制度の見直し(新規創設医療法人について持分なしのみに限定、解散時の残余財産の帰属先の制限、役員・社員総会等の法人内部の管理体制を明確化、事業報告書等の作成・閲覧に関する規定の整備、自己資本比率による資産要件の廃止、附帯業務の拡大(社会福祉事業の範囲見直しと有料老人ホームの設置)
第6次医療法改正(2014年) 認定医療法人制度の創設
第7次医療法改正(2015年) 医療法人制度の見直しと医療法人の経営の透明性の確保(医療法人のガバナンスの強化に関する事項の整備、医療法人の分割等に関する事項の整備、社会医療法人の認定等に関する事項の変更)
医療法一部改正(2017年) 持分なし医療法人移行計画認定制度の要件緩和
 

 医療法人の類型については、下表のとおり。

持分あり法人 出資限度額法人 基金拠出型法人 特定医療法人 社会医療法人
法令等 医療法附則 医療法附則 厚生労働省告示 医療法施行規則30の37、同30の38など 租特法67の2 医療法42の2
概要 持分の定めのある社団医療法人であって、社員の退社時や残余財産の分配にあたりその払込出資額を限度とすることを明らかにした法人   持分の定めのない社団医療法人が、法人活動の原資となる資金調達手段として基金制度を採用した法人

     
財団ないし持分の定めのない社団医療法人であって、その事業が医療の普及と向上、社会福祉への貢献、その他公益の増進に著しく寄与し、かつ公的に運営される法人

医療の非営利性を保ったまま、経営の透明化と効率化を図ったうえで、医療計画へ参画させ、自立的に公共性の高い医療を安定的な提供を実施する法人