医療生活協同組合

 消費生活協同組合法(生協法)に基づく生活協同組合のうち、医療、福祉事業を行うものが医療生活協同組合であり、一般に医療生協という略称で呼ばれている。医療、福祉の公共性の観点から、他の事業を行う生活協同組合とは異なる形での規制が課せられている。生活協同組合では利益の分配に当たる剰余金の割り戻しが可能であるが、医療生協の場合は、事業所である医療機関に適用される医療法が利益の分配を禁止していることから、これとの整合性をとるため、医療・福祉事業からえられた剰余金の割り戻しは生協法上も禁止とされている。組合員以外へのサービス提供である員外利用についても、それ以外の事業での限度が組合員の利用分量の100分の20とされているのに対し、医療・福祉事業での限度は100分の100までと医療・福祉事業の公益性を反映している。ただし、事業所に適用される医師法に、診療に従事する医師は診療、治療が必要な場合に正当な理由がないかぎりそれを拒んではならないとする応召義務が規定されており、員外利用は診療を拒む正当な理由として認められていないとの政府の見解から、事実上は限度以上の員外利用も許容されている。世界の保健医療協同組合のなかでも、日本の医療生協は医療提供者と住民の共同出資による医療・福祉事業、および協働での市民運動、医療運動への取り組みが特徴的である。組合員が数人で集まって作る班会などの生協独自の仕組みを活用し、組合員が自主的な予防、健康づくり運動や、それを発展させた健康まちづくり運動を展開しているほか、国際貢献活動などにも取り組んでいる。医療運動としても、平成3(1991)年に当時としては画期的な「患者の権利章典」の制定や、組合員による医師の教育活動を行うなど、先進的な活動に取り組んできた。
(山下智佳)