医療圏

 医療計画のなかで、病院や診療所の病床の整備を図るために区分する地域的単位を指す。地域の医療需要に応じて、総合的に医療を提供するための区域として設定される。医療圏設定の根拠となる医療計画は、昭和60(1985)年の第1次医療法改正において、医療資源の適正な配置と医療施設の連携推進を目的として導入された。都道府県は、医療圏を設定し、その圏域内での必要病床数の算定と確保を行うこととされている。医療圏は、医療に必要な専門性やニーズの程度によって1次医療圏から3次医療圏までの段階がある。1次医療圏は風邪などの日常的な疾患に医療機関の外来で対応する初期医療や予防医療等、いわゆるプライマリケアを充実させるうえでの圏域区分である。2次医療圏は一般的な医療サービスをひととおり提供できる体制の充実を目指し、この圏域内で入院医療の提供が完結できるよう整備する、医療計画上基本的な区分である。3次医療圏は、高度、もしくは先進的な医療技術を要する医療や、特殊な医療機器の使用を要する医療の提供体制を整備する圏域である。医療圏の地理的設定に関しては、地理的条件などの自然的条件、人口密度、経済活動や通勤、通学といった日常生活状況や交通、通信事情などの社会的条件といったさまざまな要因を考慮することとされている。しかし、実態としては行政区分に従う形で設定され、住民の受療行動や生活行動が反映されていないことや、規模、医療資源の格差などが問題として指摘されている。おおむね1次医療圏は市町村単位であり、2次医療圏は都道府県ごとに3〜20程度に区分けされ、複数の市町村が1つの単位である。3次医療圏は医療法によって原則都道府県を1つの単位として設定されることとされており、北海道のみ6つの圏域が設定されている。医療計画策定の背景には医療費抑制が必要であること、また、自由開業医制のもとで医療機関の開設、増床が自由に行われた結果、医療提供の量的拡大にもかかわらず人口あたり病床数の地域格差が大きくなっていたことがある。そこで、医療計画には病床数規制の性格を有する基準病床数制度(平成12[2000]年以前は必要病床数)が組み込まれており、医療圏はその基礎として位置づけられている。都道府県は、一般病床および療養病床の設置上限である基準病床数を全国統一の算定式を用いて割り出すが、算定式に用いる人口、住民の属性、退院率、平均在院日数、病床利用率等のデータは2次医療圏をベースとしたものである。すでに整備されている既存病床数と比較し、既存病床数が基準病床数を上回る病床過剰地域では、特例を除いて病院、有床診療所の開設および既存の医療機関の増床は許可されない。このように医療圏は十分な医療資源の確保のための区域であるとともに、民間病院の開設や増床を規制し、病床数増加を抑制する総量規制区域としての性格も有している。
(山下智佳)