一取引二仕訳

 1つの取引に対して2つの記録が求められるために生じる仕訳のことである。公益法人会計基準では記録をもとに貸借対照表、正味財産増減計算書の作成が求められる。ただし、従来から旧制度の公益法人の運営上、予算準拠主義に基づいた予算の編成、執行は重要であるとされ、収支予算書を作成するとともに、予算と実績を対比する収支計算書により法人の運営の状況を報告、説明してきたことから、継続して収支計算書を作成している法人が存在している。また、学校法人や社会福祉法人のように収支計算書の作成が義務づけられている法人も存在している。収支計算書は企業会計における損益計算書とは異なり収入と支出を一覧表示するものであるため、その作成には、現金および財産の増減の把握だけでなく、収支の変動を記録するため2つの記録が必要とされる。記録方法には2通りの考え方があり、1つは現金の増減を財産の増減として記録するとともに、財産増減の原因を正味財産の変動と収支の変動として捉える方法である。もう1つの方法は、現金の増減を収支の変動として捉え、同額を正味財産の変動および財産の増減として捉える方法である。どちらの方法であっても収支の変動が収支計算書に記載される。これにより、収支計算書で表示される収入と支出の差額である繰越金と貸借対照表で表示される正味財産とが一致することとなる。収支計算書作成のために2つの記録を用いることは、取引を財産の増減とその変動原因として記録する企業会計で用いられる複式簿記とは異なる記録方法であるといえる。
(生島和樹)