委託事業

 本来個人や組織が自ら行うべき事務・事業等を、その執行の適宜性・効率性等に鑑みて、他の個人や組織にゆだねることを指す。事業をゆだねる側は「委託者」と呼び、一方で事業をゆだねられる側は「受託者」と呼ばれる。主として、特殊技術、専門的知見、あるいは特殊な設備を要する事務・事業等が対象になり、通常、委託者は受託者に対し委託事業費を支払い、受託者は受託事業の対価としてこれらの経費(受託事業費)を受け取る。委託事業の契約形態は一般競争入札、指名競争入札、随意契約などさまざまで、業種や事業内容によって相違がみられる。たとえば、行政の委託事業では一般競争入札が原則とされているが、近年ではNPOとの協働事業の発展に伴い、企画提案型契約(コンペ方式)を採用する自治体も少なくない。企画提案型契約は、公募によって提出された企画書やプレゼンテーションをもとにもっとも優れた提案を行った組織と事業契約を締結するもので、NPOの専門性やスキルを活用した新たな事業展開が見込めるという利点がある。しかし、いかなる契約形態であっても委託者側には適格な契約条件や契約内容の策定が求められるし、受託者側は委託者から示された契約を適正に履行する義務が発生する。特に委託事業費(受託事業費)の算定は重要で、これによって事業内容が左右されることはいうまでもない。従って、委託者は事業の適正な履行に向け、委託に係る必要経費はすべて委託事業費として算入しておく必要がある。なお、委託事業費は直接経費と間接経費の2つに分かれ、前者は物品費や人件費など事業の実施に直接必要となる経費、後者は受託者の事務所の管理や維持費等など事業の実施に間接的に必要となる経費(事業を管理・監督する担当者の人件費、事業を履行するためのスキルとして蓄積してきた技術料なども含む)を意味する。委託事業費が適正に積算されない場合、経費の不足が生じ、事業の質の低下や不安定な事業展開を招くおそれがある。他方、受託者への委託事業費の給付方法(=受託事業費の納入方法)は一般的に事業実施後に給付されるが、事業の適正な執行を確保するため、前金払い(事業開始前、または給付すべき時期の到来前に支出すること)や精算払い(いったん経費を立て替え、後日受託者側から納入)が用いられる場合も多い。いずれにしても、委託者は事業の契約内容や条件を厳密に規定し、場合によっては受託者側と役割分担や経費負担等も含めあらかじめ協議を重ねたうえで、契約を締結することが望まれる。
(小熊 仁)