アンソニー報告書(米)

 FASB財務会計基準審議会(米)の非営利会計概念フレームワークにおける非営利会計諸概念形成の原点といえる報告書である。FASBの非営利会計概念フレームワークに関する研究作業は1977年から始まり、その予備的研究としてFASBがAnthony, R N.(アンソニー)に委嘱し、1978年5月に公表されたのがアンソニー報告書である。その正式報告書名は、FASBリサーチリポート『非営利組織における財務会計:概念的問題の予備的研究』である。本報告書は、全5章から成っている。第1章「序論」では、当時の状況および研究の目的、範囲、計画等を示している。まず、非営利組織のためのGAAPがないことを指摘し、非営利組織のための財務会計基準の必要性を説明したうえで、会計諸基準作成の基礎となる概念フレームワークが必要であるとする。本報告書では、ツーステージアプローチ、すなわち、財務報告の利用者が「必要とする情報」を定義したうえで、それらの情報ニーズを満たす諸概念を識別するという2段階のアプローチが採用されている。第2章「利用者および利用者情報ニーズ」では、非営利組織の財務報告の利用者と彼らの情報ニーズが識別される。利用者として5グループ、「支配機関」、「投資者および債権者」、「資源提供者」、「監視機関」、「構成員」をあげ、各グループの情報ニーズを「財務的存続可能性」、「財政的準拠性」、「管理業績」、「提供されたサービスのコスト」の4つに分類する。第3章「財務諸表に関する利用者ニーズ」では、非営利組織の主要財務諸表である財務フロー報告書と業務報告書を中心に利用者が必要とする情報について議論される。第4章「取り上げた論争点」では、財務諸表で報告される具体的問題、たとえば非収益業務インフローや減価償却などの取り扱いに関する異なった諸見解が示されている。第5章「非営利会計諸概念の境界」では、営利組織から区別される非営利組織の本質を規定する諸要因の特徴が検討され、営利・非営利という従来の組織区別のほかに、財務資源の主源泉(収益か収益以外か)による組織区別の方法を新しく提示している。このアンソニー報告書をもとに、1978年6月にFASB討議資料『財務会計および報告のための概念フレームワークに関する論点の分析:非営利組織の財務報告の目的』が作成され、その後、公開草案を経て、1980年12月、FASB概念書第4号『非営利組織の財務報告の目的』が公表されるに至る。
(池田享誉)