新しい公共

 これまで行政が独占していた公共サービスの提供について、地域住民、地域組織、NPO法人、企業等の民間の多様な主体も等しくそのサービスの提供者となりうるとの認識に立ち、官民が協働して地域社会を持続的に発展させていくという考え方である。公的な活動をする民間の主体について、「従来の公共」である行政と並列化させる概念といえる。また、PPP(Public Private Partnership)という考え方とも親和性が高い。このような考え方が最初に登場したのは、国が平成20(2008)年に策定した国土形成計画である。同計画においては、近年の社会の成熟化、社会への貢献意識の高まり、価値観の多様化等により、従来行政が担ってきた範囲にとどまらず、幅広い「公」の役割を非営利組織、企業など多様な主体が担いつつあるとし、この動きを積極的に捉え、個人、企業等の社会への貢献意識をさらに促すとともに、地縁型のコミュニティに加え地域の活性化や国土の管理など国土づくりを担う新しい主体の育成に繋げるべきであるとした。同計画ではまた、多様な主体が協働し、従来の公の領域に加え、公共的価値を含む私の領域や、公と私との中間的な領域にその活動を広げ、地域住民の生活を支え、地域活力を維持する機能を果たしていくという考え方について「新たな公」と呼び、多様な主体の協働を基軸とする地域経営システムや地域課題の解決システムの構築を目指すこととしたところである。その後、平成21(2009)年の民主党政権への移行に伴い、同政権下でこの考え方は急速にクローズアップされることとなった。鳩山由紀夫首相(当時)は、就任後の所信表明演説で「私が目指したいのは、人と人が支え合い、役に立ち合う『新しい公共』の概念です。『新しい公共』とは、人を支えるという役割を、『官』といわれる人たちだけが担うのではなく、教育や子育て、街づくり、防犯や防災、医療や福祉などに地域でかかわっておられる方々一人ひとりにも参加していただき、それを社会全体として応援しようという新しい価値観です。…市民やNPOの活動を側面から支援していくことこそが、21世紀の政治の役割だと私は考えています。」と述べた。また、平成22(2010)年6月には新しい公共の力を活かした日本の将来ビジョン、その育成のための条件や、具体的な取り組みのイメージを述べた「『新しい公共』宣言」が発表された。さらに、新しい公共の推進を主目的とする特命担当大臣が置かれていたのも特徴的である。特命担当大臣は、内閣の重要政策に関して行政各部の施策の統一を図ることを目的に内閣府に設置されるものであるが、民主党政権を通じて一貫して担当大臣が置かれ続けたこと自体、同政権が新しい公共を内閣の重要政策として認識していたことをあらわすものである。民主党政権時から今日までを通じて、新しい公共という言葉の認知が世間一般に広まったとはいい難い。しかし現在では、NPO法人をはじめとする民間事業者が福祉サービスを担ったり、住民による自治的組織が地域産業の振興や高齢者の移動手段の確保などの取り組みを行ったりする事例は一般的になっており、その意味で新しい公共の基本的理念については社会のなかに受け入れられたといってよい。
(澤田道夫)