アドホクラシー

 未来学者のToffler, A. (トフラー)によってつくられた概念であり、「特別にこのことについての」という形容詞の“アドホック”(adhoc)に、「政治・社会組織」を意味する“クラシー”(-cracy)という名詞連結形を結びつけた合成語である。何か新しいことに取り組むための臨時的な組織を指す。トフラーはBennis, W. G. (ベニス)の所説に依拠したため、ベニスがアドホクラシーの概念の第一提唱者とみなされることもある(ベニス自身は「一時的システム」あるいは「適応的構造」という表現を用いている。)。
 アドホクラシーのより詳細な分析はMintzberg, H.( ミンツバーグ)が行っている。彼は、アドホクラシーを5つの基本的な組織形態の1つに位置づけたうえで(残りの4形態は、単純構造、機械的官僚制、プロフェッショナル的官僚制、事業部制)、「さまざまな分野から選び出された専門家たちを結集した円滑に機能するアドホックなプロジェクト・チーム」と定義している。トフラーによれば、社会はその時代のテンポに合った組織形態を生み出す。官僚制は、産業社会(第2の波)のテンポに合った組織形態である。超産業社会(第3の波)では、変化の加速度が官僚制をもってしてはとうてい追いつけないほど、急速なペースに達している。そこで、変化により敏感に反応できるアドホクラシーが出現する。この新たな組織形態のもとでは、特定の問題を解決するためにチームが組まれ、問題が解決されるとチームは解散し、そのメンバーは別の任務を与えられるという流動現象が起きる。官僚制の3大特徴である半永久性、ハイアラーキー、分業は、組織のなかの人間を、当該組織に対して卑屈な、いわゆる「オーガニゼーション・マン」(Whyte, W.H.)にする。他方、アドホクラシーは、半永久性の代わりに一時性―組織間の高度な移動性、組織内で絶えず行われる再組織化、短命なワーク・グループの絶え間ない再生と衰退―によって特徴づけられ、それゆえ多数の組織とかかわりをもちながら、基本的にはそのどれにも身を任せきっていない人間をつくり出す。トフラーは、こうしたタイプの人間を「アソーシエイト・マン」(associative man)と呼ぶ。
 以上のように、変化の激しい超産業社会にはアドホクラシーが適しているが、あらゆる組織がアドホクラシーになれるわけではない。アドホクラシーは航空宇宙、電子、シンクタンク、研究、広告、映画製作、石油化学など、第2次世界大戦後に成長した比較的新しい産業において採用されている。ミンツバーグは、この事実が、既存研究から導かれた「組織構造は産業が創立された時代を反映する」という命題の正しさを証明するものであると述べている。
(西村友幸)