市民立法

 アジェンダの設定から政策案の策定、制定後の活用まで、市民が深くかかわる形ですすめられた法律について、その過程や主体に注目した呼称である。条例を含める場合と、直接発議の制度が担保されない法律に限定し、直接性を強調した規範的な含意で用いる場合がある。社会活動、公益、多元性、市民団体等のキーワードと関連づけて論じられる。平成10(1998)年に制定された特活法の動きが注目されたが、市民がかかわる形での立法の事象は民主主義の発展とともにある。野党を通じたアジェンダ化、省庁や政党を含めた多元的な均衡、国際世論の動向に押される形等で実現されてきた。1990年代に実施された政治改革は政治家が主導する形での政策形成を担保したが、小選挙区制度は圧力団体の系列を超えて、市民の要望を取り入れる必要を増加させた。行政改革を通じてなされた行政手続きの透明化も、政策形成とそのプロセスへの関心を高めた。こうした制度改革が市民立法の活発化と関連する。市民立法の要素は政治学の主題と連続性があり、政治参加論、参加民主主義論、圧力団体論、政治過程論等の領域で論じられる。既存の系列に属さないことや政策提言のために現場知を含めた専門性をもつことなどが新しい事象として注目された。立法学では閣法(内閣提出法案)と議員立法(議員提出法案)という2つの提案形式に依拠した議論が蓄積されているため、議員立法の一類型に位置づけられることもあったが、形式に捉われず参加の実質をみる必要がある。国会を通じて制定される法律数が2000年代以降大きく増加し、基本法・特例法の増加が顕著である。これらの形式をとる場合、制定の効果を実質的に担保するためには監視や提言に依る余地を残し、この点でも市民の継続的な参画が期待される。
(勝田美穂)