社団・財団の経営者に求められること

立法趣旨は「公益の増進」

明治以来の大改革の公益法人制度改革も10年以上が経ちました。
誤解されることが多いのですが、立法趣旨は「公益の増進」であり、本来、制度は「社団・財団の経営者」の活動を後押ししてくれるはずのものです。

2003年の閣議決定では「画一的対応が重視される行政部門、収益を上げることが前提となる民間営利部門だけでは様々なニーズに十分に対応することがより困難な状況になっている。
これに対し、民間非営利部門はこのような制約が少なく、柔軟かつ機動的な活動を展開することが可能であるために、行政部門や民間営利部門では満たすことのできない社会のニーズに対応する多様なサービスを提供することができる」と謳われました。
さらに、立法時の国会では民間の「みずみずしい力」を発揮するための改革とまで言われたものです。

このことは、一般法人でも同様です。
「今般の公益法人制度改革の目的は、『民による公益の増進』である。一般社団・財団法人(以下「一般法人」という。)への移行認可への諸要件の定め方如何によって、公益目的事業を含む非営利活動の担い手である一般法人の財産を不必要に消耗させたり、あるいは、活動形態を必要以上に制約することにより法人のバイタリティーを消失せしめるようなことは、今回の改革の趣旨に沿っているものとはいえない。」(公益認定等委員会第31回議事録)とあります。

したがって、社団・財団の経営者の皆様は民間らしい「柔軟かつ機動的な活動」をこれまで以上にしていただければと思います。

残念な運用と社団・財団への侮辱

しかし、残念なことに必ずしも立法趣旨通りに制度が運用されているとは言い難い側面があることも事実です。
却って規制が増えたのではないかと感じている法人も多いと思います。

行政庁には報告要求や勧告のなどの悪い方の事例はたくさんたまっていきますから、制度は時間経過につれて制度疲労をしていくことはある程度予想されていました。
制度疲労を起こさせないための唯一のよりどころは民間有識者の公益認定等委員会の委員なのですが、残念ながら「公益法人のことを知りません」と堂々とおっしゃる方が、内閣府にも都道府県にも数多くいらっしゃるのが現実です。

内閣府の「公益認定委員会だより」には公益法人の活動に素人だったことや制度についての知識不足であることを堂々と載せる委員が続出するなど、法人感情を逆撫でする方々が続出しています。日本的謙遜の美徳を表現したかったのだろうと好意的に解釈するにも限界があります。

さらに、例えば、「公益法人のガバナンスの更なる強化等に関する有識者会議」では、公益法人への会計監査人の法定適用範囲を広げるべきだと唯一主張していた委員が、会計監査人がどの機関で選任され、任期が何年であるか(=いずれも法定されています)を知らないで発言していたことが議事録に残っています。

また、(専門家である)会計監査人の公益法人への知識が少ないことを認めた上で「鶏(専門知識を有していること)が先か、卵(適用の拡大による専門家の育成)が先か」といった半ば公益法人を嘗め切っていると受け取られても仕方のない発言が繰り返されています。
このような社団・財団全体への一種の侮辱に対して、黙っているとますます運用がおかしくなっていくようにも思います。

行政庁職員は人格者。味方につけて

皆様方の味方は窓口の行政庁の職員です。
実は公益認定法も一般法人に関係する整備法も、行政庁職員の規律を求めている個所が何か所もあります。
さらに、行政手続法には、行政庁職員が皆様方へ指導するにあたって守るべき事項がたくさん書かれてあります。

彼らは法令を遵守するように皆さんに言うかもしれません。
しかし、彼らに守るべき法令を守ってくださいと言ってくれる人は非常に少ないのです。

だからこそ皆さんは疑問に思ったことは行政庁職員に何でも言ってください。
指導を受けたら文書を求め、根拠を教えてくれとこのメールマガジンを印刷した上でお伝えください。
そのことは彼らのためにもなりますし、立法趣旨にもかなうことです。

公益法人制度改革関連三法は内閣提出法律案であり、その担当部署は行政改革本部でした。
当然、公益法人に接する行政の「改革」も意図されていました。

その点も踏まえて、行政庁の職員に対して「恥をかかせる」のではなく、行政庁の職員からいろんなことを教わってください。
ただその時に、行政改革に反する過剰な要求や干渉ではないかと思ったら、「もう少しよく教えてください」の一言をお忘れなく。

私はたくさんの行政庁職員と出会っています。彼らは例外なく人格者です。
時には自分で「おかしい」と思っていることでも、委員会で言われたら伝えなければならないつらい立場にいる方々でもあるのです。
その立場を理解した上で、是非、接してあげてください。

世界各国で広がる社団・財団

社団・財団の経営者というのは、人に説明しにくい職種でしょう。
人から聞かれたらどのようにお答えになりますか?

日本で一番著名な世界の社団・財団のトップと言えば誰になるでしょうか?
おそらく今では社団ではIOCのバッハ会長、財団ではビル・ゲイツではないでしょうか?

好き嫌いはあるでしょうが、バッハ氏はあれだけの世界イベントを開催するトップとして、また、ゲイツ氏はコロナと戦い世界のワクチン製造や世界の貧しい国々へのワクチンの供給に全力を尽くす人として活躍しています。
彼らには毀誉褒貶が渦巻き誤解が多いかもしれませんが、社団・財団を象徴する世界的規模の著名人が存在し、かつ、一国の元首と肩を並べている様子が世界に放映されているということが大変意味のあることです。

ジョンズ・ホプキンス大学のレスター・サラモン教授が、産業革命に匹敵する非営利革命が世界中で起こっていると指摘したのは前世紀末です。
産業化構造が大きく変化し、世界中で今、社団・財団が脱産業化の中で大きなうねりを上げています。
どの国も政策が行き詰まる中で、非営利組織の活動に大きな期待を寄せています。

さらに、社会に貢献する職種として若者をどんどん惹きつけています。
制度改革が目指したものはこうした世界の大きな潮流に伍していくようにというものでした。

しかし、翻って日本の現状に目をやれば、残念ながら目先の規制にだけに官民の関心が増大しているように思えてなりません。
この事態を打破できるのは他ならぬ社団・財団の経営者の一人一人の方々だけです。
「公益の増進」のために、日々の規制に汲々となることなく、是非、誇り高く事業に邁進されることを願っております。

出口 正之 先生

執筆者
出口 正之
国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授

(公社)非営利法人研究学会理事。政府税制調査会特別委員、非営利法人課税ワーキング・グループ委員、内閣府公益認定等委員会常勤委員などを歴任。主な著書に『公益認定の判断基準と実務』(全国公益法人協会)、『初めての国際学会』(日本評論社)、『フィランソロピー 企業と人の社会貢献』(丸善)など。