
指定正味財産とは何か
令和4年10月4日付けで「寄附を推進力に」が内閣府により公表された。財務三基準の考え方の誤解の大きな要因となっていることとも深い関係があるので、関連情報も含めて説明したい。
指定正味財産は、もともとは米国のコミュニティ財団等が寄付調達のために創設し、発達したものである。
そうした実態を会計的に表現するために、FASB(Financial Accounting Standards Board 米国財務会計基準審議会)が、非拘束資金、一時拘束資金、永久拘束資金としたもの(当時。現在は2分類)を参考に、平成16年公益法人会計基準にて日本に導入された。その際、分類を2つにし、用語も「拘束」というのがいかにも強すぎるということで、「一般正味財産」、「指定正味財産」となった。
なお、米国でも日本でも「拘束」や「指定」といってもそれが意味するところは、「使途」に限ったものではなかった。
「指定正味財産」の公益法人会計基準上の定義
「指定正味財産」の公益法人会計基準上における定義については、現在の公益法人会計基準運用指針(6-7頁)に以下のように記載がある。
指定正味財産として計上される額は、例えば、以下のような寄付によって受け入れた資産で、寄付者等の意思により当該資産の使途、処分又は保有形態について制約が課せられている場合の当該資産の価額をいうものとする。
- ② 寄付者等から公益法人の基本財産として保有することを指定された土地
- ② 寄付者等から奨学金給付事業のための積立資産として、当該法人が元本を維持することを指定された金銭
以上のとおり、「指定正味財産」の指定は「使途」に限定するものではない。しかし、いつの間にか「指定正味財産」とは「使途の 指定のある財産」であると意味が変わってしまった。
根拠曖昧な「会計規制」の暴走
さらに、今回の資料をみてみる。
「複数の事業がある場合は、どの事業かを具体的に明らかにされていることが必要」のルールについては、収支相償規定と指定正味財産を組み合わせることから、徐々に形成された「会計規制」の一つである。
当初の内閣府公益認定等委員会で議論された形跡がなく、途中から加えられたものである。
公益法人会計基準上の指定正味財産の定義は「寄付者等の意思により当該資産の使途、処分又は保有形態について制約が課せられている場合の当該資産」であるから、指定正味財産とは当然寄付者の意思による条件付き寄付と考えられる。
法人が受け入れた段階で、贈与契約が成立しているのではないか。
この条件付き贈与契約を解除する権限を行政庁が有しているような運用がこれまで行われてきた。
今回公表された資料はそのことを如実に表した内容となっている。
今回の資料(5頁3Q&A質問1)に「寄附を公益目的事業の指定正味財産に計上する場合、「公1事業に使用する」だけではなく、「公 1事業の〇〇事業に使用する」など、公1事業の中のどの事業かを具体的に明らかにされていることが必要です。
これは、法人によっては、複数の事業から構成される公1事業を実施している場合があるためです」と掲載されており、運用上の規制が明らかにされた。
例えば法人が公1事業(学生支援事業)、公2事業(教員支援事業)、公3事業(大学事務職員支援事業)を行っていたとする。
さらに、公1事業が公1-1:奨学金事業、公1-2:学生のクラブ活動支援、公1-3:学生のベンチャー起業支援に細分化されているとする。
学生の支援事業に使ってほしいという寄付者の意思があった場合に、当該規制は公 1 の枝番の事業すなわち公1-1の事業か公1-2の事業か公1-3の事業かを指定しなければ、指定正味財産ではないというものである。
このことは、寄付者には学生の支援に使ってほしいという明確な意思があるにもかかわらずに行政庁か不当に介入することでそうした指定だけでは指定正味財産ではないと言っていることになる。
その場合、当該寄付は一般正味財産になるので、公2事業、公3事業にも使用が可能となり、結果として寄付者の意思は完全に無視されることとなる。
公益法人会計基準の指定正味財産の定義や関連法令から、このような権力行使の根拠は説明できるのだろうか。
なぜ収支相償はわかりにくくなったのか?
前述の通り、根拠のない「会計規制」が次々と作られ、しかも十分な説明をしてこなかったことが、大きな要因と考えられる。
現場は何をルールにしていいのかわからず混乱している。
とりわけ、財務三基準と公益目的取得財産残額は密接に連動しているにもかかわらずに、「収支相償を緩和する」という名目で、解釈を変化させることで制度の全体の調和が崩れてきた。
例えば、会計研究会が法人会計から公益目的事業会計への「他会計振替」を認めた時に、別表Hへの影響を一切考慮しなかったことなどがその典型であろう。
また、緩和すると同時に、「特定費用準備資金」の「合理的」な積算の合理性を全く恣意的に行政庁が否認していったことやそもそも「特定費用準備資金」の性質そのものをしっかりと理解していなかったことが、現在の混乱を招いてしまった要因の一つであると考えられる。
寄付を推進力とするためには、「使途、処分又は保有形態についての制約」という公益法人会計基準上の公表されているルールを、「収支相償の緩和」と引き換えに、暗黙の会計規制強化を繰り返していった暴走の実態と要因を解明し、今回歯止めをかけなければ、どんな制度を作っても元の木阿弥となりかねないだろう。


執筆者
出口 正之
内閣府公益認定等委員会元委員
(公財)助成財団センター 代表理事・理事長
(公社)非営利法人研究学会 理事
専門誌「公益・一般法人」編集委員長
国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授
政府税制調査会特別委員、非営利法人課税ワーキング・グループ委員などを歴任。
主な著書に『公益認定の判断基準と実務』(全国公益法人協会)、『初めての国際学会』(日本評論社)、『フィランソロピー 企業と人の社会貢献』(丸善)など。

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