1. 研究委員会設定の経緯

 現行の公益法人会計基準(20年基準)の適用範囲は以下の法人であり、それ以外の一般社団・財団法人(以下、「一般法人」という。)については特に規定されていない。
 ① 認定法第2条第3号に定めのある公益法人
 ② 整備法第123条第1項に定めのある移行法人
 ③ 整備法第60条に定めのある特例民法法人
 ④ 認定法第7条の申請をする一般社団法人又は一般財団法人
 また、経済団体連合会が公表した(2015年5月7日)「一般社団・財団法人法施行規則による一般社団法人の各種書類の雛形(改訂版)」においても、「新規設立法人又は移行完了法人については、公益法人会計基準に準じた計算書類及び附属明細書を作成することのほかに、企業会計基準を選択して計算書類及びその附属明細書を作成することが考えられる。」としか言及されておらず、一般法人の会計の在り方について、具体的な研究は進んでいない。そこで2017年9月4日、公益社団法人非営利法人研究学会は、旧特例民法法人でない一般法人や公益目的支出計画を終了した一般法人が公益法人会計基準を適用する場合に如何なる問題が存在するかを洗い出し、どのような改善策を講じることが可能かを調査・研究すべく、「一般法人への公益法人会計基準の適用に関する研究委員会」(以下、「本研究会」という。)が設置された。
 本研究会では一般法人のための適切な会計について研究することで、「一般法人会計基準案」設定の目指すこととし、全7回にわたる会議が開催されたところである。その足かけ3年間の議事概要を示すと次のとおりである。

2.各回の議事概要

(1)第1回(2017年12月23日)議事概要
① 会計基準の設定主体について

 通常、非営利法人の会計基準設定主体は所管する官庁が行うことが多いが、その所管する官庁がないなかで、この会計基準にどのように規範性をもたせることができるのか。
本研究会としては成果物を内閣府・日本公認会計士協会・経団連などに提案できないか。
監査の問題、すなわち適正性・準拠性の問題から会計士協会の考え方が重要である。
② 現行の「公益法人会計基準」との関係について
 現行の公益法人会計基準は、内閣府公益認定等委員会が所管する公益法人もしくは移行法人が対象となっており、移行法人以外の一般法人は対象にしたものではない。
たとえば移行法人以外の一般法人が内訳表を作成しようとした場合に、公益法人会計基準には移行法人以外の一般法人についての内訳表の様式がなく、各法人が公益法人や移行法人の様式を工夫しながら修正しているのが現状である。したがって本研究会でも、全く新しい「一般法人会計基準」を策定するというより、現行の公益法人会計基準を補完するような会計基準を策定するとしたい。
③ 「一般法人会計基準」を作成する場合に16年基準の考えも考慮するのか?
20年基準は、公益認定法との整合性から表示等が制限されているが、本来の非営利法人の会計はどうあるべきかという観点からの検討が必要ではないか。20年基準を基にしながら異なる点について言及するのか、若しくは、16年基準を基に改正点について言及するのか。ベースをどちらとするのか。
非営利会計統一の流れがある中で、会計基準が乱立するのは却って混乱を招く。また会計士協会「非営利組織の財務報告の在り方に関する論点整理」(以下「論点整理」という。)から大きく逸脱するのは好ましいものではない。
④ 小規模の会計基準と大規模の会計基準を分けるか?あるいは事業タイプで分けるか?
非営利会計統一の流れがある中で、会計基準が乱立するのは却って混乱を招くのではないか。
(2)第2回(2018年2月22日)議事概要
① 前回からの検討事項:「一般法人会計基準」の設定と方向性について
会計基準のメンテナンスの問題がある。20年基準の「マイナーチェンジ版」にすれば、20年基準がメンテナンスされる毎にメンテナンスが可能になる。
⇒本研究会の方向性としては、20年基準をベースにその「マイナーチェンジ版」として「一般法人会計基準」を策定していく方針を確認した。
② 前回からの検討事項:16年基準との関係性について
資金収支計算書を今更会計基準にまで持ってくるのは困難であると思われる。しかし、本来は必要なものであるので、16年基準で「内部管理事項」と整理した手法を取り入れる必要があるのではないか。
⇒資金収支計算書はあくまでも内部報告資料であり、外部報告の会計基準に入れることはできないが、一般法人会計基準と共に「内部管理事項」として策定することとすれば、多くの法人の利便に寄与できるのではないか。
(3)第3回(2018年7月2日)議事概要
 第2回の会議での検討事項を再確認した後、具体的に現行の20年基準をたたき台に修正すべき事項を検討した。
20年基準をたたき台として一般法人会計基準を具体的に検討した。その際に、「財務諸表の注記」について、内閣府「平成27年度公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について」で注記事項に企業会計基準の取り扱いを相当程度取り入れることとなっているため、一般法人会計基準の注記にできるだけ反映させることとした。
(4)第4回(2018年8月29日)議事概要
① 「モデル会計基準」の動向について
日本公認会計士協会では、2013年7月2日に非営利法人委員会研究報告第25号「非営利組織の会計枠組み構築に向けて」を公表し、非営利組織会計の共通的な枠組みを構築することの必要性及び各制度上の会計基準の規範となる「モデル会計基準」の開発を提唱していた。これを受けて「モデル会計基準」の草案が来年4月頃に公表される予定である。
「モデル会計基準」の動向で一般法人会計基準が左右されるものと考えられる。

⇒「モデル会計基準」が公表されるまで1年間、休会とした。

(5)2019年7月31日 日本公認会計士協会「非営利組織における財務報告の検討」(モデル会計基準)を公表(以下、日本公認会計士協会HPより抜粋)
 「モデル会計基準」は、個別の法人形態に適用すべき会計処理や表示の基準を表すものではなく、文字どおりの会計基準のモデルとして、制度上の会計基準が開発・改正される際に参照されることを目的としたものである。非営利組織における財務報告の基礎的な概念が共有されるとともに、具体的な取扱いを示すモデル会計基準を参照した改訂が実施されていくことを通じて、基準間の相互整合性が高まるものと期待される。
 このため、現行の法人形態別の会計基準に優先して、強制力を持つような性質のものではなく、非営利組織における会計の考え方の参考となるものと考えている。

(6)第5回(2019年8月5日)議事概要
① 日本公認会計士協会が公表した「モデル会計基準」についての説明
モデル会計基準は尊重することを期待して作成されたものである。
モデル会計基準は小規模組織について対象外であり、一般的な組織を前提としたものである。
特に論点になるのは、a 資産の部 従来の特定資産の表示はモデル会計基準においては使途拘束の注記で表示することとしたこと b 純資産の部 従来の2区分(指定正味、一般正味)から3区分(基盤純資産、使途拘束純資産、非拘束純資産)にしたこと c 使途拘束純資産の拘束の解除については活動計算書上非拘束純資産に振り替えないことなどである。

② 「一般法人会計基準」策定の今後の方向性

「モデル会計基準」を世に広めていくことはこの研究会にとっても有用であり、使命であるのではないか。したがって「一般会計基準」策定にあたっては、「モデル会計基準」をベースにして策定することとする。
(7)第6回(2019年10月8日)議事概要
① 一般法人会計基準の方向性の再確認
「モデル会計基準」を尊重することは、この研究会の使命であると考え、「一般法人会計基準」は「モデル会計基準」を尊重したと明確にわかるものにしたい。
内閣府公益認定等委員会「公益法人の会計に関する研究会」においても、今後はモデル会計基準を参考にしつつ公益法人会計基準の改正作業をしていくということを表明している。
② 具体的な検討
モデル会計基準は企業会計と同様、貸借対照表は流動式配列法。使途については注記とする。資産と純資産の紐づけ(リンク)は行わない。
有価証券の取り扱いは公益法人会計基準と異なるが、「モデル会計基準」と同様にする。
一般法人としては、基盤純資産はほとんど該当しないのではないか。したがって2区分の使途拘束と非拘束で考えれば、今までどおりでとなる。そうすると残りの大きな問題は拘束の解除により区分を振り替えるかどうか。
「非営利組織における財務報告の検討」の5.モデル会計基準(2)財務諸表の体系において、使途拘束純資産に「資源提供者」のみならず「組織の機関決定」を加えたことの説明で「公益法人における特定費用準備資金のような報告組織自身が意思決定した場合であって、取り崩しに制約が課される場合も考慮することとした」とある。
理事会等で貸方を拘束するというのは、企業会計での利益留保性の引当金あるいは積立金と同様に考えれば良いのか。
特定資産自体が本表になく注記となっている。特定資産を流動資産に全部載せているといったら、知らない人が見たらミスリードしてしまうのではないか。
企業会計だと、同じ有価証券でも有価証券だからっていっても保有目的によって流動と固定に分かれる。預金であっても、別に形態がどうであろうといっても、保有目的によるのではないか。

企業会計で現預金を固定することはあまりない。非営利の特徴である。

非営利の情報ニーズとは何かと考えたとき、利用者サイドの人達は必ずしも非営利に精通している人達ばかりではなく、その視点から考えると、企業会計の目線が必要となる。モデル会計基準は企業会計に近い部分はあると思う。
(8)第7回(2019年12月12日)議事概要
① 一般法人会計基準案について

モデル会計基準は、企業会計に近づけていく会計基準であると考えられる。
非営利組織の経理担当者が不足している現状を考えると、モデル会計基準によって会計の統一化がなされていけば今後非営利組織や営利組織との間での人材の流動化が期待されるのではないか。
別紙の一般法人会計基準案のとおり、まずは「非営利組織」というところを各所、「一般法人会計」という言葉に変更し、各論点に従って必要箇所を変更した。

3.モデル会計基準と公益法人会計基準の主要な差異

 モデル会計基準と公益法人会計基準との差異として主要なものは次のとおりである。
① 資産の部の表示
モデル会計基準 
 流動固定分類表示として、拘束の資産の情報は注記事項として補足
公益法人会計基準 
 基本財産、特定資産という資産の拘束を示す科目表示
② 純資産の部の区分
モデル会計基準
 基盤純資産、使途拘束純資産、非拘束資産、評価・換算差額等に区分
公益法人会計基準
 指定正味財産、一般正味財産、基金の区分

③ 使途拘束純資産・指定正味財産
モデル会計基準(使途拘束純資産)
 資源提供者との合意のみでなく、組織の機関決定により、使途の制約を課した資源も使途拘束とする。
公益法人会計基準(指定正味財産)
 寄付によって受け入れた資産で、寄付者等の意思により当該資産の額を、貸借対照表上、指定正味財産の区分に記載する。

④ 拘束区分間の振替
モデル会計基準
 拘束純資産区分で解除時に費用計上により拘束純資産が減少する。
公益法人会計基準
 正味財産増減計算書で解除時に費用と対応させる。

⑤ 非拘束資産から拘束資産への振替の有無
モデル会計基準
 非拘束純資産のうち、組織決定で制約を課すことができる。
公益法人会計基準
法人外部からの資産のみ指定、組織決定したものは、資産側で拘束表示

⑥ 資産と純資産の紐づけ
モデル会計基準
    無
公益法人会計基準
    有

⑦ 活動計算書・正味財産増減計算書での有価証券評価損益の取り扱い
モデル会計基準
 純資産直入法とし、活動計算書には計上しない。
公益法人会計基準
 正味財産増減計算書に計上する。

⑧ 事業費・管理費の形態別分類と機能別(活動)分類
モデル会計基準
 活動別分類とし、形態別分類は注記
公益法人会計基準
 形態別・事業別分類

4.「一般法人会計基準案」での論点整理

 実務上受け入れ可能な「一般会計基準案」を策定するにあたって、モデル会計基準と公益法人会計基準との主要な差異についてどちらを採用するか、本研究会は検討の結果、次のとおりとした。
① 資産の部の表示
 従来の「基本財産、特定資産という資産の拘束を示す科目表示」からモデル会計基準の「流動固定分類表示として、拘束の資産の情報は注記事項として補足」とすることとする。
 モデル会計基準の「表示の複雑性の問題の解決と資産の流動性に基づく一貫した開示を重視するために、拘束性の開示は注記とした」考え方を本基準案でも採用することとした。
② 純資産の部の区分
 従来の「指定正味財産、一般正味財産、基金の区分」から「基金・代替基金、使途拘束純資産、非拘束資産、評価・換算差額等の区分」とする。

③ 使途拘束純資産・指定正味財産
 従来の「寄付によって受け入れた資産で、寄付者等の意思により当該資産の額を、貸借対照表上、指定正味財産の区分に記載する。」から「寄付によって受け入れた資産で、寄付者等の意思により当該資産の額を、貸借対照表上、使途拘束純資産の区分に記載する。」とする。
 本研究会として、モデル会計基準が、使途拘束純資産の説明で「資源提供者との合意又は組織の機関決定等により特定の資源が使途の拘束を受ける場合」としており、その「組織の機関決定等」によるものとして「特定資産準備資金」を例示していることに注目した。
 議論を重ねる中でモデル会計基準が「特定資産準備資金」を例示したのは、単なる組織の機関決定ではなく、「法令等の要請を前提とした」組織の機関決定を想定していることが判明し、そうであるならば一般法人の場合には「法令等の要請を前提とした」組織の機関決定は通常想定しにくいことから、従前と同じ考え方を踏襲しても特に問題はないと考え、モデル会計基準とは異なった取扱いとした。

④ 拘束区分間の振替
 従来の「正味財産増減計算書で解除時に費用と対応させる」から「拘束純資産区分で解除時に費用計上により拘束純資産が減少する」とする。
 拘束が解除された場合には、指定正味から一般正味に振り替えることは、公益法人会計基準の大きな特徴であった。しかしながら会計の現場では、どのような場合に拘束が解除されるのか、恣意性が混入しやすく問題となっていた。もし拘束が解除されても非拘束に振り替えず、拘束純資産区分で完結するのであれば、大きな問題とはならない。本基準案では、モデル会計基準と同様の取り扱いとすることで上述の問題を解決することとした。

⑤ 非拘束資産から拘束資産への振替の有無
 法人外部からの資産のみ拘束純資産とし、組織決定したものは、拘束を注記により表示する。

⑥ 資産と純資産の紐づけ
 従来の「有」から「無」に変更する。

⑦ 活動計算書・正味財産増減計算書での有価証券評価損益の取り扱い
 純資産直入法とし、活動計算書には計上しないとする。

⑧ 事業費・管理費の形態別分類と機能別(活動)分類
 活動別分類とし、形態別分類は注記とする。

5.継続組織の前提について

 継続組織の前提について、モデル会計基準は、次のように規定している。
 「継続組織の前提  モデル会計基準は、非営利組織が継続して活動することを前提とした会計基準である。したがって、組織の清算若しくは事業の停止があるか、又はそれ以外に現実的な代替案がない場合や組織の継続を予定していない場合は、モデル会計基準の適用は想定していない。」
 他方、公益法人会計基準は「継続組織の前提 この会計基準は、公益法人が継続して活動することを前提としている。したがって、組織の清算や全事業の廃止など、組織の継続を予定していない場合は、この会計基準は適用されない。」としており、モデル会計基準とは若干表現が異なっている。
 この点につき2020年5月25日に公表された内閣府公益認定等委員会「令和元年度公益法人の会計に関する諸課題の検討結果及び整理について」において、補足説明があり「なお、公益法人には、特定のイベントの開催後に解散が予定されているものもある。「継続」とは、仮に存続期限があったとしても、実際に清算の状態に至らない限りは、組織が継続するものとして会計処理を行うことを意味するものである。したがって、イベントの開催後、清算手続開始まではこの会計基準が適用されることに注意を要する。」として、「有期限」の法人についても公益法人会計基準が適用されることを確認している。
 そのため、今回の一般法人会計基準案では、モデル会計基準の文言ではなく公益法人会計基準の文言を採用した。

 

⇨一般法人会計基準(案)