新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議 中間報告

(公開日:2023年2月17日)

 

※本記事は公益法人informationに掲載されている「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」より中間報告、関連資料をまとめたものです。

 

中間報告

令和4年12月26日
新しい時代の公益法人制度の
在り方に関する有識者会議

 

 当会議は、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和4年6月 7日閣議決定)及び「経済財政運営と改革の基本方針 2022」(令和4年6月7日 閣議決定)に基づき、民間による社会的課題解決に向けた公益的活動を一層活性化し「新しい資本主義」の実現に資する観点から、公益認定の基準を始め現行の公益法人制度の在り方を見直し、制度改正及び運用改善の方向性について検討を行うため、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)の下、令和4年10月4日に第1回を開催し、8回にわたり議論を重ねてきた。本中間報告は、当会議としての基本的な考え方を整理したものであり、今後、本中間報告に沿って、更に具体的な検討を進める必要がある。

 

1.改革の意義及び基本的方向性

(成熟した社会と公益法人の役割)
 多様な価値観をもつ個人が自らの価値観に基づき、SDGs実現その他の多様な社会的課題解決に主体的に取り組んでいくという成熟した市民社会においては、機動的な対応が難しく画一的な対応になりがちな行政部門のみでは社会的課題の発掘・解決には限界がある。また、利益の分配を目的とする民間営利部門のみでも社会的課題の解決には限界があり、営利を目的としない民間非営利部門が「公(こう)」として多様な社会的価値の創造に向けて果たす役割が、ますます重要となる。
 こうした成熟した社会においては、「公」への国民の参加や支援を広く呼び込んでいくための枠組みの整備に加えて、「公」の担い手である民間非営利組織には、国民からの支持や理解を得るための透明性やガバナンスの確保が求められる。
 我が国における「公」の主たる担い手たる「公益法人」は、明治29年(1896年)の制度創設、平成18年(2006年)の新公益法人制度への改革を経 て、これまで一世紀以上にわたり、地域社会の発展、児童の健全育成、福祉、学術・科学技術、芸術・文化など社会のあらゆる分野において我が国の民間に よる公益的活動を牽引し、その活動は社会に深く根差すとともに、社会からの信用も獲得してきた。また、事業の性格も、明治の創設期は慈善事業の色合いが濃かったが、新公益法人制度を経て、民間による社会的課題解決のための継続的な事業へと発展してきた。
 現在、約9,700の公益法人、職員数約28万人、多くの主体からの寄附や会費等を通じて公益目的事業費規模年間約5兆円、総資産約29兆円を有し、民 間公益の主たる担い手となっている。
 成熟した社会において、多様なニーズに柔軟かつきめ細かに対応できる「公」の機能が重要となっていることにかんがみ、公益法人が、社会的課題に取り組む事業を継続的・発展的に実施していけるよう、時代に合わせた改革を進めていく必要がある。

 

(新しい資本主義において公益法人が求められる役割)
 政府は、現在、「新しい資本主義」の実現に向けて取り組んでいる。新しい資本主義においては、社会的課題の解決に向けた取組をエネルギー源として捉え、それを取り込むことによって包摂的でイノベーティブな新たな成長を図っていくという考え方の下、民間による社会的課題解決に向けた公益的活動の活性化を重視し、「民間も公的役割を担う社会を実現」することを柱の一つとして位置付けている。
  新しい資本主義の実現に向けて、社会のあらゆる分野で民間非営利公益の主たる担い手となっている公益法人は、税制上の優遇措置が設けられている趣旨も十分に踏まえ、裾野を広げるとともに公益的活動を更に積極的に行っていく必要がある。
 今後の公益的活動の積極的展開に当たっては、多様で変化の激しい社会のニーズに柔軟かつきめ細かに対応し、新たな事業展開にチャレンジして新たな社会的価値を創造し、成果として社会的インパクトを創出していくことが期待される。

 

(新しい資本主義の実現に向けた公益法人制度改革の基本的方向)
 2006年に制定された新公益法人制度は、民間公益増進を目的としつつも、不祥事の発生を契機として、旧来の民法法人制度への反省等に立ち、議論されたという経緯もあり、制定以来、厳格な事前規制・監督による国民の信頼確保に重きを置いた行政が行われてきた。このため、公益的活動の自由な展開・伸長の制約となっていると指摘がなされてきた。
 新公益法人制度発足以来、十数年を経て、新しい資本主義の下、社会の変化等に柔軟に対応し多様な社会的課題解決に向けて民間の力を引き出していくための制度改革が必要である。
 このため、事業の適正な実施を確保しつつ、公益的活動の持続・発展性や法人の中長期的経営戦略を積極的に後押しをするという発想に転換した上で、法人が社会的課題の変化等に柔軟に対応し得るよう、その活動の自由度を拡大していく必要がある。
 一方、公益法人は、税制上の優遇措置や国民からの寄附を受け、その資金を適正に活用して不特定かつ多数の人々の利益のために公益的活動を実施する存在であり、不祥事等の防止に加えて、徹底した透明化を行った上で、自らの中長期 的経営戦略及びその活動に関する社会への説明を果たしていくことが、自らの活動に対する社会からの認知・理解・支援を向上させるとともに、社会のニーズ に応えるための前提になる。こうした観点から、法人活動の自由度拡大に伴うガバナンスや説明責任の充実を図り、国民からの信頼をより強いものにしていく必要がある。
 以上の考え方を踏まえ、「法人活動の自由度拡大」と「自由度拡大に伴うガバナンスの充実」を両輪として、公益法人制度の抜本的な改革を進めていくべきで ある。なお、制度の改革に当たっては、社会経済情勢の変化等を踏まえつつ長期的視野で取り組んでいくべき事項もあり、今後とも不断の見直しを行っていく必要がある。

 

2.法人活動の自由度拡大について

 改革の目的に照らし、公益法人が社会的課題の変化等に柔軟・迅速に対応して公益的活動の活性化が図られるよう、運用面を含め、収支相償原則や遊休財産上限規制の在り方を見直すとともに、公益認定等の手続の柔軟化・迅速化等について検討する。

 

(1)収支相償原則の見直し
 収支相償原則は、公益目的事業の収入と適正な費用を透明化し比較することで、収支差額が生ずる事業年度が存在すること自体は問題としないものの、それが恒常化しない収支構造であることを制度上確保し、公益目的事業に充てられるべき財源の最大限の活用を促す規律である。本規律が、単年度 の収支赤字を強いるものという誤解を根絶し、法人の中期的・安定的な法人運営を図る観点から、単年度の収支差ではなく、中期的な収支均衡状況の確 保を図るものであるという趣旨を、法令上明確化する方向で検討する。その際、「収支相償原則」という呼称も含めて検討する。
 中期収支均衡状況の把握に当たっては、将来の公益目的事業の持続・拡充 のために積み立てる準備資金(※1)は費用とみなすことを明確化する。
 準備資金は、現行の特定費用準備資金よりも社会的課題の変化に柔軟に対応しうる使い勝手の良いものとなるよう、検討する。

 

※1 現行の「特定費用準備資金」及び「資産取得資金」に相当。

 

 なお、収支相償原則の在り方については、根本から見直すべきとの意見もあったが、これに対しては、収支相償を論拠に公益目的事業非課税等があり、これらの根本にかかわる点にも留意すべきとの意見もあった。

 

(2)遊休財産規制の見直し
 公益法人が、社会経済情勢の変化等に対応しつつ、安定した法人運営を継続していくためには、法人にとって一定程度自由に使用できる余裕財産が必要な一方で、公益目的事業の実施とは関係なく法人内部に過大に蓄積されること(死蔵)は避ける必要がある。
 このため、遊休財産(使途不特定財産)について、合理的な理由により現行の公益目的事業費1年相当分という上限額を超えて保有する場合は、その理由や財務情報等を透明化し、超過分は将来の公益目的事業のために適切に管理・活用することを法人自らが明らかにすることにより、公益に活用されるべき財産の死蔵ではないことの国民への説明責任を課すという方向で検討する。
 また、遊休財産の保有上限額の算定方法は、中期的・安定的な法人経営の観点から見直す。

 

(3)認定等手続(公益認定、変更認定、合併手続)の柔軟化・迅速化
 公益法人の事業変更などに係る変更手続について、社会的課題の変化に対応した事業改編をより柔軟・迅速に行えるよう、当該法人の公益性に大きな影響を与えないような変更については、変更認定事項を届出事項とする方向で検討する。認定事項から届出事項に変更した事項については、必要に応じ事後チェックで対処する。
 法人の合併を円滑かつ柔軟に行うことができるよう手続の改善について検討する。
 また、認定等審査の迅速化、透明性・予見可能性の向上のため、行政庁による審査のメリハリ付けによる迅速化・効率化、認定等審査に当たり申請者に対して求める資料の明確化・合理化、審査が長期化したケースの分析等を行うとともに、審査期間の実績の公表を行う。
 さらに、認定等に関する行政の判断のぶれやばらつきを極力なくす観点から、法令やガイドラインにおいて統一的な指針を明示するとともに、国・都道府県の関係職員への研修を強化する。

 

3.自由度拡大に伴う法人ガバナンスの充実について

 不祥事防止等のコンプライアンスの確保の観点に加え、法人活動の自由度拡大に伴う社会的責任の高まりに見合う説明責任の強化の観点から、公益法人にはそのガバナンスの充実が求められる。ガバナンスの充実に向け、法人運営の透明性の一層の向上、法人の内外からのガバナンスの向上及びこれらを前提とした行政の事後チェックへの重点化について検討する。

 

(1)法人運営の透明性の一層の向上
 法人運営の透明性の一層の向上を図り、国民からの信頼を高めることで、寄附や支援を受けやすくするという好循環を目指し、法人の経営やガバナンス、事業の成果に関する情報等、どのような法人情報の開示を拡充すべきか、他の法人類型における情報開示の内容も参照しつつ検討する。
 各法人が個別に行う情報開示のほかに、内閣府による法人情報の一元的な情報公開プラットフォームの整備を検討する。その際、デジタル化による法人の書類作成等事務の負担軽減、中間支援団体等が利活用しやすいデータ形式、国民にとってわかりやすい表示方法に留意する。

 

(2)法人の内外からのガバナンスの向上
 税制上の優遇措置を受けていることや、国民からの支援を受け不特定多数の者の利益のために公益的活動を行うことに鑑み、公益法人にはそれにふさわしいガバナンスを確保することが求められる。
 ガバナンスに求められる機能としては、理事等による私的運営への牽制、業務執行の適正性・効率性等の監督等が挙げられるが、これを踏まえ、法人運営への外部からの視点の導入や理事等への情報提供や研修の充実を含めた監査・監督機能の強化等といった法人の自律的ガバナンスの充実に向けた方策を検討する。その際、他の法人類型におけるガバナンスに関する規律も参照する。
 具体的な基準の検討に当たっては、個々の法人にとって最も実効性のあるガバナンスの在り方は、多種多様な事業内容や規模等によって異なり、基本的には、自主的・自律的に選択されるべきものと考えられることから、法令やその運用によって共通して確保されるべき事項、民間自主規制によることがふさわしい事項、個々の法人の責任と選択に委ねられるべき事項のいずれが適当か整理した上で、行う必要がある。また、特に地方における役員等として適格な人材の供給状況等、実態にも配意する必要がある。
 また、ガバナンスの充実に当たっては、上記のような法人内部の自律的ガバナンスを補充・補完するため、法人の外からの社会的な評価・チェック機能を効かせていくことが望まれる。
 このため、前提としての情報開示の拡充を図るとともに、中間支援団体等と行政が連携・協働して、社会的な評価・チェック機能の向上や法人への支援等に取り組んでいく必要がある。

 

(3)行政による事後チェック
 法人運営の透明性の一層の向上、法人の内外からのガバナンスの向上を図った上でなお生ずる不適切な事案に対しては、行政庁が適切に事後チェックを行い事態を改善することで、国民から制度への信頼を確保する。
 こういった観点から、不適切な事案の発生を予防するための「一律的な事前規制型」の行政から、事後的に実効性の高い措置を講じる「重点化した事後チェック型」の行政へという方針の下、監督や処分に当たっての基本的な考え方をあらかじめ策定・公表して、行政庁職員等に対し周知徹底するとともに、法人側の予見可能性を高める。
 行政庁の立入検査については、不適切な運営の疑いのある法人への随時検査へ重点化するという考えの下、現行の網羅的かつ定期的な検査に手法・頻度を含めたメリハリを付け、効果的な検査を実施する。その際、不適切事案の端緒を確実に捉えることができるよう、法人内外からの通報を的確に活用する。
 その上で、不適切な事案を覚知した際には、報告徴収や立入検査等を行って改善の方向に促しつつ、なお改善が見られない場合には、行政庁が勧告・命令・認定取消し等の処分を迅速かつ的確に行う。また、法人に対する抑止効果、寄附者に対する情報提供の観点から、監督状況・改善状況等について一覧性をもって情報公開することを検討する。

 

4.公益活動の活性化のための環境整備について

 内閣府において、一元的な情報公開プラットフォームとなる情報システムを整備し、申請等のデジタル完結、ユーザーの利便性向上、行政庁が提供する情報のオープンデータ化、公益法人が毎年度提出する定期提出書類作成の負担軽減等を図るなど、公益法人行政のDXを推進する。
 公益法人による社会的課題解決に向けた取組の成果を可視化する等の観点から、インパクト測定・マネジメントの普及・啓発を図る。
 これまで以上に、法人・経済界・中間支援団体・士業団体等と行政庁との対等・協力関係におけるコミュニケーションの充実を図る。また、関係法令やガイドラインの改定に当たっても、これらの団体等や国民の意見を幅広く聴取しつつ検討する。
 「新しい資本主義」が目指す民間公益活動の活性化という観点から、平成 31 年法制審議会答申 2を踏まえつつ、公益信託の公益認定制度への一元化に 向けて検討する。
 民間にとっての利便性向上の観点から、これまでに掲げた事項のほかにも、公益法人が社会的課題の解決に向けて果たすべき機能について、引き続き検討する。

 

(以上)

 

各種関連資料

第1回会議(令和4年10月4日)

資料1 新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議の開催について (PDF/375KB)
資料2 新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議運営要領(案) (PDF/233KB)
資料3 第1回新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議事務局説明資料(PDF/7.74MB)
資料4 公益法人の成長とガバナンス(溜箭委員提出資料)(PDF/364KB)

 

第2回会議(令和4年10月12日)

資料1 「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」ヒヤリング資料(公益財団法人助成財団センター)(PDF/1.24MB)
資料2 「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」ヒアリング(公益社団法人日本芸能実演家団体協議会)(PDF/516KB)
資料3 収支相償及び遊休財産規制の現状と課題について(PDF/4.86MB)

 

第3回会議(令和4年10月25日)

資料1 公益法人の自律的ガバナンスについて~公益法人のもつ社会変革力向上のために~(PDF/257KB)
資料2 経済同友会の組織運営の現状と課題:自律的ガバナンス構築への模索(岡野委員提出資料)(PDF/268KB)
資料3 インパクト測定・マネジメントの現状と公益法人による活用可能性(菅野委員提出資料)(PDF/2.86MB)
資料4 法人の自律的ガバナンスの現状と課題について(PDF/1.65MB)

 

第4回会議(令和4年11月9日)

資料1 「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」提出資料(公益財団法人鉄道弘済会)(PDF/0.99MB)
資料2-1 新しい資本主義実現のための公益法人制度改革への提言1(高山座長代理提出資料)(PDF/552KB)
資料2-2 新しい資本主義実現のための公益法人制度改革への提言2(高山座長代理提出資料)(PDF/509KB)
資料3 収支相償及び遊休財産規制の現状と課題について(2)公益認定・変更認定手続の迅速化について(PDF/928KB)

 

第5回会議(令和4年11月16日)

資料1 NPO等を対象にした組織評価・認証制度(公益財団法人日本非営利組織評価センター)(PDF/1.26MB)
資料2 (公財)公益法人協会作成の「公益法人ガバナンス・コード」について(公益財団法人公益法人協会)(PDF/1.02MB)
資料3 公益信託法の見直しに関する要綱案(法務省)(PDF/1.19MB)
資料4 法人の自律的ガバナンス・公益法人行政の在り方について(内閣府)(PDF/2.08MB)

 

第6回会議(令和4年11月30日)

資料 中間報告に向けた主な論点(PDF/285KB)

 

第7回会議(令和4年12月7日)

03_資料1 追加意見(菅野委員提出資料)(PDF/836KB)

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