古庄 修(日本大学)

 

Ⅰ はじめに

 筆者は、『非営利法人研究学会誌』第16 号(2014 年)において、英国における財務報告制度の再編成に係る議論を踏まえて、「総体としての財務報告制度において非営利組織(英国では公益目的事業体(Public Benefit Entities, PBE)と総称される。)の会計の位置づけ、そして営利企業の会計との連係が絶えず議論されてきた」(古庄[2014]36 頁)これまでの経緯と到達点に注目し、その経路依存性を相対化して捉えることにより、日本の非営利組織に係る会計基準の統一の必要性の是非およびその可能性について考察した。
 今般の英国における財務報告制度の再編成の主眼は、英国会社法上適用される一般に認められた会計原則(以下「英国GAAP」という。)が国際会計基準(IFRS)とともに財務報告制度に併存するいわゆるダブル・スタンダードを回避することにあった。そこではIFRS の肯定的な受容と統合をその出発点としながら、中小企業向けIFRS(IFRS forSME)をベースに、これに調整を加えて英国 GAAP を再編成した点に特徴があることを説明した。
 だが、財務報告基準(FRS)第102 号「英国およびアイルランド共和国において適用可能な財務報告基準」の公表時点ではその全容が明らかにされていなかったチャリティ(charities)に適用される実務勧告書(SORP、以下「チャリティSORP」という。)については、上記拙稿においてその改訂に係るいくつかの課題を指摘するにとどまり、当該SORP の性格や適用範囲およびFRS 第102 号との相互関係等については言及しなかった。
 英国の非営利組織の会計基準は、財務報告評議会(FRC)が公表したFRS 第102 号が営利企業と共通して適用されることになるが、それだけで完結しているわけではない。特に、非営利組織たるPBE に対しては、当該事業体ごとに適用される具体的な会計上の実務指針として、チャリティSORP が設定されている。つまり、英国では、中核的な会計枠組みを会計基準設定主体たるFRC が形成し、個別の会計上の取扱いについては非営利組織の各所轄機関がSORP を設定している。チャリティSORP についてはFRC による確認―会計実務において基本的に認められないような会計基準間の矛盾がないことを確保するための限定的なレビュー(筆者注)―のプロセスを通じて、企業会計基準を基軸として相互の整合性が図られているが、個別の会計上の取扱いについて当該SORP において企業会計の場合とは異なる取扱いも許容されている(梶川・森 [2013] 20 頁)。
 本稿は、日本公認会計士協会(JICPA)の研究報告に依拠して、非営利組織の「会計枠組み構築」のためのアプローチからふたつの論点、すなわち①企業会計との会計基準の共有、および②小規模チャリティに対する会計基準の適用を析出したうえで、特に①の論点を踏まえて、英国において再編成されたチャリティの新たな財務報告制度、すなわちFRS第102 号―PBE の会計―チャリティSORP―の構造と相互関係について説明したい。

Ⅱ FRS 第102 号とチャリティSORP の相互関係と制度構造

1 「会計枠組みの構築」のためのアプローチとふたつの論点

 JICPA は、非営利組織に対する民間からの資源提供を強化し、自立した経営を促す仕組みが必要であり、その一環として、法人形態を超えて幅広いステークホルダーのニーズに応え得る共通の「会計枠組み構築」の必要性を提唱した(日本公認会計士協会[2013])。すなわち、JICPA は、非営利組織が自立性ならびに自律性を高め、説明責任を果たす必要からディスクロージャーの意義を認めたうえで、日本の非営利組織の会計基準は法人形態ごとに異なるため、各法人の会計基準に精通していなければ横断的理解が難しい状況を捉えて、各法人が共有しうる会計基準を設定する必要性を提起するものである。
 かかる観点から、JICPA は、非営利法人に共通の概念フレームワーク―会計基準―法人個別の会計指針により階層的に構築されると考えられる会計枠組みを想定して、当該枠組みの構築に向けて、①基本枠組み共有アプローチ、②モデル会計基準間開発アプローチ、③会計基準共通化アプローチへの段階的な会計基準の開発と制度対応を進めていくことを提案した(日本公認会計士協会 [2013])1
 また、JICPA は、このような議論を発展させて、特に「モデル会計基準」の開発を提唱し2、当該基準の開発に向けた基礎的な検討として、非営利組織に共通する「会計枠組み構築」の必要性を踏まえて11 の論点3を示しているが(日本公認会計士協会 [2013])、ここでは次のふたつの指摘に注目したい。
 ひとつは、企業会計との関係をどのように考えるか。JICPA は、財務報告の枠組みを①企業会計から独立して構築するアプローチと、②企業会計と共有するアプローチ、のふたつを取り上げ、各々の利点と課題を明示している(日本公認会計士協会 [2015])。そのうえで、非営利組織における財務報告目的を達成するための一貫した枠組みを構築すること、基準の範囲を明確にすることで非営利組織による会計基準の一貫した適用を担保する観点から、非営利組織における財務報告の基礎概念および会計基準が単独で成立するように、JICPA は企業会計の枠組みとは独立して構築することが望ましいと、上記①のアプローチの優位性を強調している。また、この場合、非営利組織会計の基礎概念と会計実務規範としての会計基準をひとつの文書にまとめて公表することにより、財務諸表の作成者および利用者にとって有用性を高め、効率的かつ迅速な対応が可能になるとしている(日本公認会計士協会 [2015] 23-29 頁)。
 もうひとつは、特に小規模組織に適用する会計基準をどのように設定するか。JICPA は、小規模組織にはその会計実務能力に制約があり、かかる状況に対応する観点から、小規模組織には簡便な取扱いを具体的に定め、単独で利用可能な会計基準を設定するアプローチが望ましいと論じている。しかし、その場合であっても概念フレームワークにおける基礎概念や原則的な会計処理方法を定める会計基準との整合性を確保しながら、個別の会計処理については実務上の負担を軽減するための方法を検討することにより簡便な取扱いを定めていくべきとしている(日本公認会計士協会 [2015] 29-32 頁)。
 以下では、非営利組織会計の基礎を形成する概念フレームワークおよび会計実務規範としての会計基準は企業会計と共有すべきか、あるいは独立すべきか、また、非営利組織の規模に配慮して小規模組織に適用される会計基準を別途設定すべきか、もし必要であるならばどのような会計基準が望ましいのか、こうしたふたつの論点のうち、本稿は第一の論点である企業会計との関係に焦点を絞り4、英国チャリティの財務報告制度の形成に係る経路依存性を踏まえてその「現在」を概説することにより、JICPA が提唱する「会計枠組み構築」の在り方について考察の手がかりを得たい。

2 FRS 第102 号と公益目的事業体の会計

 英国においては、2012 年11 月に英国およびアイルランドにおける新たな財務報告制度の枠組みの全体像を規定するFRS 第100 号「財務報告基準の適用」、およびEU 版IFRSに基づく認識と測定について適格事業体5に対する開示減免の詳細を規定したFRS 第101号「開示減免の枠組み」が公表された。また、2012 年3 月に国際会計基準審議会(IASB)が設定した中小企業版IFRS、すなわちIFRS for SMEs を土台として英国会社法との調整が図られた前述のFRS 第102 号が、英国GAAP として公表されている6
 すなわち、英国では、新たな財務報告制度の枠組みとして、①完全版EU-IFRS の適用、②開示減免を伴う完全版EU-IFRS の適用、 ③FRS 第102 号に基づく中規模向け財務報告基準の適用、④開示減免を伴うFRS 第102 号の適用、そして⑤小規模企業向け財務報告基準(FRSSE)の適用に区分されることになった。
 本稿が注目する上記第一の論点、すなわち企業会計と非営利組織会計と関係について、FRC の重要な狙いのひとつは、FRS 第102 号によって英国GAAP を単一の財務報告基準として集約したうえで、英国におけるチャリティを含むPBE に適用されるSORP を再構築するために、FRS 第102 号をその基礎として適用することが意図されている点にあった。
 チャリティはこのようなPBE に分類される典型的な非営利組織のひとつである。
 ここにPBE とは公益目的を有する事業体であり、財務的報酬を得ることなく資金や資源を提供する支援者が存在し、当該支援を受けて公衆、地域社会、または社会的便益のために財やサービスを提供し、特定の剰余が生じた場合でもあくまでも当該目的のために消費する組織であると定義される。PBE の定義によれば、チャリティ・カンパニーを含む英国チャリティのほか、登録公共住宅協会(registered social landlords)、大学等を含む継続・高等教育機関(further and higher education)、さらに出資型の非営利法人であるコミュニティ利益会社(CIC)等が含まれる。PBE には日本における非営利法人のみならず、広く社会的企業(social enterprise)が包含されることになる7
 PBE の会計を網羅したFRS 第102 号の公表に至る経緯と到達点は、英国における民間非営利組織の会計基準設定をめぐる問題が、IFRS との共通化(コンバージェンス)に直面する財務報告制度全体の枠組みを構想するなかで提起されてきたことを明示している。
 PBE の会計におけるIFRS の適用の在り方については当初から重要な課題であったが8、最終的には、FRS 第102 号は、PBE の会計に係る問題のなかには企業会計と共通して適用しうるものが含まれることから、別途独立したPBE 向けの会計基準の設定は選択されることなく、PBE の特定の要求は補足的な基準としてFRS 第102 号の独立した章(chapter)のなかに組み込まれ9、総体として英国GAAP を形成することとなった。特にPBE に求められる特有の会計処理に係る規定については、FRS 第102 号における「特殊な活動」(Specialized Activities)の領域として構成され、例えば非交換取引による収益の会計、PBE に係る企業結合、コンセッション・ローン等が網羅されている。
 英国においてはPBE の非商業的取引(non-commercial transactions)をこれまで会計基準のなかで明示的に扱ってこなかった。これに代わってその会計上の取扱いについては、PBE に属するサブ・セクターごとにSORP を設定し、提供されてきた。その意味で、前述のJICPA によるプローチの類型に従えば、英国においては企業会計から独立した非営利組織向けの「会計基準」は存在しておらず、企業会計とPBE の会計はFRS 第102 号において統合され、PBE の特定の要求もFRS 第102 号のなかに組み込まれることになった。
 この点について、SORP 間の首尾一貫性を確保するために2007 年にPBE の会計に係る概念フレームワークとして原則書(Statement of Principles)が、企業会計に係る概念フレームワークとは別途公表されており、当該原則書に基づく「解釈」に従って、FRC は財務報告目的や想定する利用者について企業会計の考え方を実質的に修正している(日本公認会計士協会 [2013] 14 頁)。
 以下に概説するように、チャリティSORP は、3 つのPBE向け SORPのひとつであり、FRC により承認された共同SORP 設定主体(joint SORP-making body)としての役割を担うチャリティ委員会(Charity Commission)およびスコットランドチャリティ規制当局(OSCR)10が公表したものである。チャリティSORP は、FRS 第102 号の下で財務諸表を作成し、公表するチャリティに対して、当該会計基準および法的要求を具体的に実務に適用するための指針(guidance)としてその役割を果たすことになる。

3 モジュールによって構成されるチャリティSORP

(1)SORP の性格
 前述のように、英国において会計基準は企業会計と非営利組織(英国ではPBE)の会計に共通して単一の会計基準が設定されているが、その基礎となる会計に係る概念フレームワーク―原則書―は別々に公表されており、当該フレームワークに従った「解釈」に基づき、サブ・セクターごとに会計基準に係る具体的な適用指針としてSORP が設定されている。SORP は特定の産業または部門―サブ・セクター―のための会計実務に係る諸勧告(recommendations)の総称であり、当該サブ・セクターに関連する特定の会計実務に照らして、現行会計基準であるFRS 第102 号その他の会計・開示上の規定を補足する。SORPは望ましい会計処理を示すことにより、サブ・セクター内における会計処理の差異を削減することを狙いとする(Deloitte [2015] par.4-1)。実務指針としてのSORP の性格から、あくまでもFRS 第102 号および法的要求がSORP に優先する。
 チャリティSORP はそのひとつであり、今般のFRS 第102 号の公表に伴い、従前の2005年チャリティSORP の改訂が行われ、2015 年1 月1 日以後開始する会計年度から適用されている。かかる改訂の主眼は、いわゆる“think small first” アプローチを採用することにあり、またモジュール・アプローチによってSORP を構成している。一般に、特定の機能を発揮する部分の集合体をモジュールと称するが11、チャリティSORP は、発生主義(accrual basis)により財務諸表を作成するすべてのチャリティが準拠すべき14 のコア・モジュール、およびすべてのチャリティに適用されないが、より特定の領域をカバーした4 つのテーマ(selection)に分割された合計15 のモジュールをその内容とする(以下、チャリティSORP の該当規定についてパラグラフ番号を括弧書きで示す)。
 FRS 第102 号は、PBE に係る最低限の会計処理方法と開示要求のみを規定するにとどまり、他方で、改訂チャリティSORP はチャリティが作成すべき主要財務諸表(Accounts)として12、貸借対照表、財務活動計算書、キャッシュ・フロー計算書の表示方法および注記事項を網羅している。FRS 第102 号はあくまでも会計基準であることから、例えばチャリティ独自の財務活動計算書(Statement of Financial Activities, SoFA)の様式13、ファンド会計の採用ならびに貸借対象における資金の表示区分等について規定されている。また、財務諸表とともに開示が求められるコーポレート・ガバナンス、目標と諸活動、達成状況および業績、財務概況(financial review)、さらに公益性報告書(public benefitstatement)等々の理事による年次報告書(Trustees’ Annual Report)におけるナラティブな開示事項等の特定の要求が、チャリティの財務諸表の利用者に対する高い水準のアカウンタビリティと透明性を確保することを狙いとして、FRS 第102 号に追加的にチャリティSORP において網羅されている点にその特徴がある。(par.6)。
 チャリティSORP は、主として財務諸表の作成および理事者の年次報告書の作成に関与する関係者を支援するために開発されたものであり、財務諸表の検査・監査(scrutiny)に関与、または会計基準の適用について助言を行うチャリティの監査人(auditor)、独立検査人(independent examiners)および会計実務家にも関連している(par.8)。また、SORP の利用者には当該SORP を通じて会計上の諸概念、原則および用語等を熟知し、会計実務に合理的な知識を有することが期待される(par.9)。

(2)チャリティSORP の目的、適用範囲および構成
 チャリティSORP の諸勧告は、以下の諸目的を達成することを意図している(par.10)。
①チャリティによる財務報告の質の改善
②財務諸表に表示される情報の目的適合性、比較可能性および理解可能性の向上
③チャリティおよびセクター特有の取引に対する会計基準およびその適用に係る説明および解釈等の提供
④理事者の年次報告書および財務諸表の作成に責任を負う関係者の支援
 チャリティSORP は、理事者の年次報告書および財務諸表の目的は、チャリティ目的ファンド(charitable funds)に係る理事の受託責任(stewardship)およびマネジメントを評価し、また財務諸表の利用者におけるチャリティに関連した経済的意思決定を支援するために、チャリティの財務業績および財政状態に関する情報を広範な利害関係者(stakeholders)に対して提供することにあると説明している(par.11)。そこでは、チャリティの過去、現在ならびに潜在的な資金提供者、寄付者および財務的支援者が当該報告書および財務諸表に網羅される財務情報の主な利用者(audience)であるが、当該情報への関心はチャリティのサービスの利用者その他の受益者にも拡張されうる(par.12)として、当該報告書および財務諸表を通じて、チャリティに提供された資源(resources)がどのように利用され、その活動の結果として何が達成されたのかを利用者が理解し得るように、法的形式を超えて支援すべきことを推奨している(par.13)。
 チャリティSORP は、法規制において設定された代替的な報告枠組みを除き、当該SORPの会計上の勧告(accounting recommendations)についてはその規模に拘らず、チャリティの財政状態および財務活動について真実かつ公正な概観(true and fair view)を提供するために発生主義に基づく財務諸表を作成するすべてのチャリティに適用されることになる(par.14)14。だが、チャリティSORP は、その会計上の勧告については現金主義に基づく収支計算書(Receipts and Payments Accounts)を作成するチャリティには適用しないことを明示している(par.17)。これに該当するチャリティは別途、収支計算書および理事者の年次報告書の様式と内容に係る各法域の規制上の要求を参照すべきことを指示している。したがって、チャリティSORP は英国GAAP としてのFRS 第102 号の下で、大規模チャリティに対して強制され、小規模チャリティにとっては当該チャリティSORPの勧告に従って任意に適用されるものと解釈し得るであろう。
 前述のようにチャリティSORP は、モジュール・アプローチを採用しており、以下のようにすべてのチャリティに適用される前述の14 のコア・モジュールが列挙されている。
【コア・モジュール】
・理事者の年次報告書
・ファンド会計
・見積もりおよび誤謬の修正を含む会計基準、会計方針、諸概念および諸原則
・財務活動計算書
・遺贈、補助金および契約上の収益を含む収益の認識
・ボランティアを含む現物給付、設備能力およびサービス
・支出の認識
・財務活動計算書における活動別原価配分の方法
・理事ならびにスタッフ報酬、関連当事者およびその他の取引の開示
・貸借対照表
・金融資産および金融負債の会計
・資産の減損
・後発事象
・キャッシュ・フロー計算書
 また、当該コア・モジュールを補足して、①特定の取引のタイプに着手するとき、②特定の方法により資産および負債を認識・測定または開示する必要があるとき、③特定の投資形態を有するとき、④特定の法的形態またはグループ構造を採用するとき等、状況に応じて選択的に適用される15 の独立性の高い追加的モジュールから構成される(par.27)。財務諸表を作成する際には、チャリティはその取引、資産および負債に適用するチャリティSORP の諸勧告のすべてを識別していることを確保するために、モジュールのインデックスに言及しなければならない(par.28)15

Ⅲ おわりに

 本稿は、JICPA が提唱する「モデル会計基準」の行方を見据えながら、英国の非営利組織に係る財務報告制度の現在について考察した。JICPA によれば、米国やフランスと同様に、英国では「企業会計基準に一定の修正または追加を施すことによって、企業会計との整合性を取りつつ固有の特性を反映した会計枠組みが構築されている」(日本公認会計士協会[2013]i 頁)が、チャリティを含む「非営利組織向けの会計基準は設定されていない」(日本公認会計士協会[2013]14 頁)。本稿は、このような英国チャリティの財務報告制度を企業会計との相互関係に注目して、その制度構造を概念フレームワーク―会計基準―非営利組織(PBE)会計―会計実務指針(チャリティSORP)の階層的な構造として捉えて説明した。
 前掲の拙稿は、英国の財務報告制度の形成においてIFRS とどのように向き合ったのか、特にPBE 会計の位置づけをめぐる問題を強調したが、当時まだ公表されていなかったチャリティSORP についてはいくつかの課題を指摘するにとどまった。英国の会計基準を理解するうえで重要な特徴のひとつは、FRS 第102 号は中小企業版IFRS であるIFRS for SMEs に基づいて設定されたものであるが、「それは土台としてのフレームワークを借りたものであり、そのアドプションやUK 版IFRS の設定を意図したものではない」という点にある(篠原 [2015] 134 頁)16。換言すれば、英国会計基準はIFRSfor SMEs をベースに設定されているが、英国会社法との整合性が図られる等の修正を加えた結果として、英国内のいわばローカル会計基準となっている。
 また、もうひとつの特徴は、英国においては、FRS 第102 号により英国GAAP を単一の財務報告基準として集約するとともに、チャリティに適用されるSORP についてもこれを基礎として改訂し、FRS 第102 号のなかにPBE の会計が包含されるかたちで営利企業と非営利組織の会計が連係することを意図した点にある。FRS 第102 号は、PBE 向け会計基準もその共通性を強調して組み込んだ、あくまでも単一の会計基準であり、別途、当該会計基準を補足する会計実務指針としてチャリティSORP との整合性が確保されている。そこでは、全体として一定の整合性を確保した会計枠組みを構築しつつ、部分的にはチャリティの特性等を反映した異なる取扱いを許容している。特に、ファンド会計あるいはナラティブ報告のような営利企業とは区別されるチャリティの特性に基づく会計上の論点や財務諸表の表示方法については、PBE の会計に係る概念フレームワークをその基礎として、実務上の便宜を考慮した取り扱いを整備してきたものと考えられる。このことは、英国におけるPBE の多様性に対応するための工夫として捉えることもできるであろう。
 翻って、現在の日本の公益法人制度は英国のチャリティ制度の枠組みに影響を受けたとの説明もあるが、財務報告制度に限って言えば、会計実務指針としての性格を有し、FRS第102 号との多数の相互参照箇所を含んでいるチャリティSORP を単独で「会計基準」として説明してよいかという点も含めて、日英間にはその制度構造に大きな相違があり、JICPA が想定する「モデル会計基準」の設定に向けて想定し得る道程とも異なっているように思われる。
 英国の財務報告制度は、営利企業と非営利組織に共通の会計基準を設定したうえでチャリティSORP が会計実務指針として連係するトップダウンの階層的な構造として説明しうる一方で、いわゆる“think small first” アプローチを採用した点を強調するならば、少なくとも実務上は小規模チャリティを前提とした現金主義ベースの財務諸表(収支計算書および財産目録に相当する簡易な資産・負債表)の作成をあらかじめ許容したうえで、チャリティSORP は主として一定規模以上のチャリティ向け会計指針として説明することも可能である。この点を日本の制度設計においてどのように捉えて評価するかが今後の「会計枠組み構築」の課題となると考えられる。