亀岡保夫(公認会計士)

 

Ⅰ 概要

 資産除去債務とは、「有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの」をいう。この場合の法律上の義務及びそれに準ずるものには、有形固定資産を除去する義務のほか、有形固定資産の除去そのものは義務でなくても、有形固定資産を除去する際に当該有形固定資産に使用されている有害物質等を法律等の要求による特別の方法で除去するという義務も含まれる(資産除去債務会計基準第3 項(1))。
 有形固定資産が対象であり、棚卸資産、無形固定資産、投資その他の資産は通常は対象とはならない。投資その他の資産に区分される投資不動産は有形固定資産に準ずるものとして対象となる。建設仮勘定やファイナンス・リース取引に基づくリース資産も含まれる。除去とは、有形固定資産を用役提供から除外することをいう。具体的には、売却、廃棄、リサイクルその他の方法による処分等をいう。転用や用途変更は含まれない。遊休状態になるのは除去に該当しない。
 除去費用の範囲は、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じたものである。したがって、有形固定資産を除去する義務が、不適切な操業等の異常な原因によって生じた場合には、引当金の計上や減損の対象となる。法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものとは、債務の履行を免れることがほぼ不可能な義務を指す。具体的には、法律上の解釈により当事者間での清算が要請される債務に加え、過去の判例や行政当局の通達等のうち、法律上の義務とはほぼ同等の不可避的な支出が義務付けられるものをいう。
 会計処理の概要は次のとおりである。資産除去債務の計上は、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって発生した時に負債として計上する。資産除去債務の金額は発生した時に、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積もり、割引後の金額で算定する。割引計算に使用する割引率は、貨幣の時間的価値を反映した無リスクの税引前の利率である。資産除去債務に対応する除却費用は、資産除去債務を負債として計上した時に、同額を関連する有形固定資産の帳簿価額に加える。資産計上された資産除去債務に対応する除却費用は、減価償却を通して、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各年度に費用配分することになる(会計基準第7 項)時の経過による資産除去債務の調整額は、その発生時の費用として処理する。当該調整額は、期首の帳簿価額に当初負債計上時の割引率を乗じて算定する。
 資産除去債務計上の効果としては、適正な損益計算を行うことができる。すなわち、資産除去債務を計上しない場合には、撤去時に費用が一括計上されるが、資産除去債務を計上すると各年度の利益を平準化する効果がある。また、除去費用が多額に上る場合には、もともと除去費用を織り込んで設備投資に係る生涯採算を評価していると考えられ、これを損益計算に反映させる資産除去債務に係る会計処理は経営上の判断とも整合していると言えるだろう。

Ⅱ 提言・考察

 『資産除去に債務に関する会計基準』は、民間非営利組織といえども、事業を実施していく上で、土壌汚染対策法、フロン回収破壊法、石綿生涯予防規則、建設リサイクル法等、遵守しなければならない法律等がある。上記Ⅰの概要に記載の要件に該当するのであれば、引当金や固定資産の減損の会計処理と同様に認識することができる。さらに、行政等の公的な機関からの要請で行う事業(民間営利法人であれば除去費用が多額になるために断念するような事業)もその社会的役割から実施する場合もあるであろう。
 しかしながら、『資産除去に債務に関する会計基準』の適用は、営利企業、なかんずく金融商品取引法の適用会社、会社法に基づく会計監査人の設置会社は必須であり、その他の公認会計士または監査法人による監査を受けていない会社や中小企業の会計に関する指針の適用会社はその対象となっていないことを勘案すると、民間非営利組織における導入についても配慮が必要であろう。

1 提言

(1)民間非営利組織、特に公益社団・財団法人に課せられている収支相償の公益認定基準の観点からも『資産除去に債務に関する会計基準』の適用は有用である。
(2)資産除去債務と有形固定資産(特定資産を含む)の関係は負債に対応する資産(特定資産を含む)ではなく、一般正味財産を財源とする資産(特定資産を含む)である。
(3)適用においては、法人の規模等を勘案してその範囲を決め、適用する場合にも簡便法等を導入する等の配慮が必要である。

2 考察

 資産除去債務計上の効果の一つとして、適正な損益計算を行うことができることは、前述したが、これは、資産除去債務を計上しない場合には、撤去時に除却損が一括計上されるが、資産除去債務を計上すると各年度に減価償却費が計上されることになる。収支相償等の公益認定基準をクリアしなくてはならない公益社団・財団法人は資産除去債務の計上により、利益の平準化を図ることは望ましいことである。つまり、公益事業に使用する有形固定資産であれば、減価償却費は事業費に計上されるので収支相償の計算に含まれる。もし、資産の撤去時に一括処理であれば、経常外費用となり、収支相償の計算の範囲外の処理となる。同様に、除去費用が多額に上る場合には、もともと除却費用を織り込んだ設備投資計画があったものと考えられ、これを採算計算に反映させることは法人運営上の判断にも利するものであろう。
 資産除去債務と有形固定資産の関係であるが、負債に対応する資産(特定資産を含む)になりうるのか。負債に対応する資産(特定資産を含む)とは、負債の支払いに充てるために預金や有価証券等を当該資産の保有目的を示す科目で積み立てるものである。例えば、退職給付引当金に対応する退職給付引当資産、預り保証金に対応する預り保証金引当資産等がある。通常、これらは負債の増減の動きに合わせて増減するものである。一方、資産除去債務を計上時には同額の有形固定資産を計上することとなる。その後、有形固定資産は毎期、減価償却計算によって減額していく。他方、資産除去債務は毎期、有形固定資産撤去時まで、利息費用分が増額していく。そして、耐用年数を経て有形固定資産除却時には有形固定資産はゼロであるが、資産除去債務は当初算出した割引前の金額となっている。したがって、資産除去債務と有形固定資産の関係は負債に対応する資産(特定資産を含む)とはならない。固定資産除去時の資金は減価償却計算を通じて内部留保することとなるので、資産除去債務に対応して計上する有形固定資産は一般正味財産を財源とする資産(特定資産を含む)である。
 時の経過による資産除去債務の増加に係る利息費用については、利息費用相当額の総額は、原則として資産除去債務計上時から除去履行時までの期間にわたり、利息法により配分するが、小規模が多い民間非営利組織においては簡便的な会計処理の適用の検討が必要である。資産除去債務額(割引前金額)または利息費用相当額の総額に重要性が乏しいと認められる場合には、資産除去債務額(割引前金額)から割り引く利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法や、利息費用相当額の総額を資産除去債務の計上時から除去履行時までの各期にわたり定額で配分する方法等である。

【参考文献】
「資産除去債務に関する会計基準」(平成20 年3 月31 日、企業会計基準委員会、企業会計基準第18 号)「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」(平成20 年3 月31 日、改正平成23 年3 月25 日、企業会計基準委員会、企業会計基準適用指針第21 号)
「公益法人会計基準に関する実務指針」(平成28 年3 月22 日、改正平成28 年12 月22 日、日本公認会計士協会、非営利法人委員会実務指針第38 号)