江田 寛(公認会計士)

 

Ⅰ 概要

 「「リース取引」とは、特定の物件の所有者たる貸手(レッサー)が、当該物件の借手(レッシー)に対して、合意された期間(以下「リース期間」という。)にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は合意された使用料(以下「リース料」という。)を貸手に支払う取引をいう。」(「リース会計基準」用語の定義)
 「リース取引」は、解約不能及びフルペイアウトを要件とするファイナンス・リースとオペレーティング・リースに区分される。ファイナンス・リースは、さらにリース期間終了後所有権が借手に移転する「所有権移転ファイナンス・リース」と「所有権移転ファイナンス・リース」以外の「所有権移転外ファイナンス・リース」に区分される。「リース取引」は、法律上は「賃貸借契約」であり、従来は会計上も賃貸借取引として処理されてきた。しかし、オペレーティング・リースについては法律上の概観と会計上の概観は概ね一致するが、ファイナンス・リースについては法律上の概観と会計取引の経済的実態とが異なるものと考えられることから、会計上の実体を正しく表現する取扱いとして「リース会計基準」が策定された。これは「リース取引」のプロセスを考えるとわかりやすい。コピーマシンの導入に関して、販売店と購入者が商品および金額で合意すると販売店側は現金購入かリース利用かを確認する。ここで、購入者が現金購入の意思表示をすれば通常の売買となり、リース利用を選択すれば賃貸借契約としての「リース取引」が開始されることになる。つまり、経済的実態の観点からすればファイナンス・リースは金融取引であり、リース対象資産は購入資産とほぼ同様の内容を有していることになる。しかしながら、リース資産は完全な物品購入ではなく、同時にリース債務は完全な借入金ではない。リース資産は、購入資産のように売却することはできないし、通常の借入金のようにリース債務を一括返済することはできないからである。「リース会計基準」の本質的部分は、法律上の概観と経済的実質が異なる場合に、会計的真実をどのように映し出すかという点にある。
 「リース会計基準」は、前述のごとくリース取引を「所有権移転ファイナンス・リース」と「所有権移転外ファイナンス・リース」および「オペレーティング・リース」に3 区分する。この区分は売買取引(金融取引)と法律上の概観である賃貸借取引との距離感を示している。「所有権移転ファイナンス・リース」と「所有権移転外ファイナンス・リース」は売買取引に近く「オペレーティング・リース」は賃貸借取引そのものである。「リース会計基準」は会計的真実を映し出すため、ファイナンス・リースについては原則を売買取引とし、重要性のないものについて賃貸借取引を許容する。ただし、売買取引に最も近い所有権移転ファイナンス・リース取引については所有固定資産と同様の減価償却を要求し、売買取引と若干の距離を有する所有権移転外ファイナンス・リース取引についてはリース期間を耐用年数とする残存価額ゼロの定額法を要求する。また、負債サイドについては、金融取引であることに着目し、リース総額のうちの利息相当額について利息法に基づく計上を要求している。同時に、リース債務が完全な借入金とは異なることから「リース資産総額の重要性」を判断基準として、利息を定額で配分する方法及び利息相当額を区分しない方法も許容している。さらに、「リース取引の内容及び減価償却の方法」を財務諸表の注記として記載することが付加的に要求されている。つまり、「リース会計基準」は「リース取引」の本質に着目し会計的真実を映し出す一手法を提示しているのである。

Ⅱ 提言・考察

 「リース会計基準」が「リース取引」の本質に着目し、会計的真実を映し出す方法を提示しているのであれば、一義的には民間非営利組織の会計に導入することに、さしたる問題はない。しかし、「リース会計基準」が成熟度の高い営利企業を前提に開発されたものであることを考慮すれば、民間非営利組織への導入に当たっては営利企業との経済的特性における相違点及び制度の成熟度に留意する必要があるだろう。

1 提言

(1)「リース会計基準」は法律上の概観が賃貸借取引であり、経済的実質が金融を前提とした資産の取得である場合における会計的真実を前提として構成されている。したがって、これらの前提が満たされない場合には「リース会計基準」の適用はないと考えるべきである。
(2)リース債務の会計処理における簡便法適用の判断基準の緩和を検討すべきと考える。

2 考察

 指定管理者制度や一部の管理委託制度において、指定管理料や受託料で購入した固定資産の所有権が自治体や委託者に留保されるケースが存在する。指定管理に係る協定書や管理委託契約書で明記されるケースが多い。具体的には、指定管理者や受託者(以下「指定管理者等」という。)が固定資産を購入した場合に、指定管理者等は当該事実を自治体や委託者に報告し、自治体や委託者の備品台帳に計上する。このような固定資産の購入に係る会計処理には、一旦指定管理者等が固定資産を計上し、当該固定資産を自治体等に寄贈するという会計処理や取得価額や耐用年数にかかわらず消耗備品費で処理するもの等が見受けられる。しかしながら、寄贈という行為は、寄贈者側にも受贈者側にも「寄付」という意識が必要であり、このケースでは両者に「寄付」の意識はなく会計的真実に見合った処理ではない。また、取得価額や耐用年数にかかわらず消耗備品費で処理するという会計処理方法は法人の経理規程における固定資産の定義との整合性を見いだせなくなる。
 このような固定資産の購入は、実質的には委託者の財産の代理購入であることから「受託財産購入支出」あるいは「指定管理財産購入支出」として処理することが適当であろう1。「受託財産購入支出」あるいは「指定管理財産購入支出」で処理した場合には、指定管理事業や管理受託事業では、固定資産に計上されることはない。このようなケースで指定管理者等が固定資産を購入する代わりに「リース取引」を行った場合にどのように対応すべきであろうか。「リース会計基準」の本質が法律上の概観と経済的実質を比較衡量したうえで会計的真実とは何かを明確にすることにあるとすれば、単純にリース資産やリース債務を計上すれば良いとする見解は受け入れ難い。現預金での取得の場合には「受託財産購入支出」あるいは「指定管理財産購入支出」として処理されるため固定資産に計上されることはなく、リース契約に拠った場合のみ貸借対照表に計上されることになるからである。そもそも「リース会計基準」は法律上の概観が賃貸借取引であり、経済的実質が固定資産の取得である場合の会計的真実を前提として構成されており、経済的実質が委託者財産の代理購入である場合を想定していない。したがって、この場合には「リース取引会計基準」の適用はないと考えるべきだろう。このような場合、一つの方法として法律上の概観通り賃貸借処理を行うことが考えられるが、取引自体はファイナンス・リースであること及び簿外のリース債務が現実に存在することから、財務諸表の注記として「重要な会計方針」に「リース会計基準」を採用していない旨およびその理由を記載し、オペレーティング・リースと同様に1 年以内の未経過リース料および1 年超の未経過リース料を記載する方法も認められるべきだろう。また、リース資産が指定管理等の対象たる財産に該当する場合には、「受託財産購入支出」あるいは「指定管理財産購入支出」として計上し、リース総額を長期未払金として計上する方法も考えられる。この場合にも、「重要な会計方針」を含む財務諸表の注記として適切な開示が行われる必要があるだろう。
 民間非営利組織の場合であっても、「リース会計基準」の本質に該当する取引の場合には、重要性の判断を前提として「リース資産」と「リース債務」を計上する必要がある。なお、「リース債務」の会計処理は利息法による計上を原則とし、簡便法として利息を定額で配分する方法及び利息を区分しない方法が認められている。「リース債務」における簡便法の採用は「リース資産総額の重要性」による判定が必要となる。「リース資産総額に重要性が乏しいと認められる場合とは、未経過リース料の期末残高が当該期末残高、有形固定資産や無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10%未満である」とされている2。つまり、有形固定資産および無形固定資産の金額が多いと重要性は低く判定されるが、合計金額が少ないと重要性が高くなり利息法による利息区分が要求されることになる。人的サービス産業としての特性を持つ民間非営利組織は、有形固定資産や無形固定資産の合計金額は少額な場合が多く、営利企業と比較して「リース資産総額の重要性」が高いと判断される可能性が高い。その結果原則的処理方法が要求され、民間非営利組織の会計を必要以上に複雑化させることになる。利息法による支払利息の計上による会計報告の複雑化は「リース会計基準」の採用の歴史の浅い民間非営利組織では制度の成熟度の視点からも好ましいものとは言えない。「リース資産総額の重要性」の判断基準を緩和し、利息を区分しない方法の適用を拡大すべきものと考える。

【注】
1 指定管理料や受託料と相殺するという考え方もあるが、それでは指定管理料や受託料の総額が分からず、自治体や委託者の了解は得にくいだろう。2「公益法人会計基準に関する実務指針(その2)」(平成8 年4 月13 日、平成20 年10 月7 日一部改正、日本公認会計士協会非営利法人委員会報告第29 号 Q16 の一部抜粋)

【参考文献】
企業会計基準第13 号「リース取引に関する会計基準」(平成5 年6 月17 日企業会計審議会第一部会、改正平成19 年3 月30 日企業会計基準委員会)
企業会計基準適用指針第16 号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(平成6 年1 月18 日日本公認会計士協会会計制度委員会、改正平成19 年3 月30 日、最終改正平成23年3 月25 日企業会計基準委員会)
「公益法人会計基準に関する実務指針(その2)」(平成8 年4 月13 日、平成20 年10 月7日一部改正、日本公認会計士協会非営利法人委員会報告第29 号 Q16 の一部抜粋)

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