橋本俊也(税理士)

Ⅰ はじめに

 非営利組織の法人が活動を行うための必要な資金を調達する方法には、営利組織の企業と同様に事業やサービスの提供による事業収入、業務委託による収入のほか、寄付金収入、会費収入、補助金・助成金などによる収入がある。近年、積極的なファンドレイジング活動を行うことで、寄付金、補助金・助成金を獲得し事業の活動資金に当てようとする非営利組織の法人が増加している。非営利組織の法人においては、組織を発展させ、より活発な活動を推進するためにも、ファンドレイジング活動の拡大は奨励されるべきものである。
 ファンドレイジング活動を行う法人においては、資金獲得のための専門部署が設置され、それに伴うファンドレイザーの専門職員を採用することにより、寄付金、補助金・助成金などの資源を獲得するための費用が発生する。こうしたファンドレイジングコストは、法人が目的とする事業のコストをあらわす事業費及び法人のガバナンスのための費用をあらわす管理費とは異なる費用と考えられる。
 ファンドレイジングコストについては、非営利組織の法人が活動を行うための重要な問題であるが、ファンドレイジングを組織的に行っている法人は日本では少ない。これに対し、アメリカやイギリスではファンドレイジングに関する研究や実践が長年にわたり蓄積されている。会計面においても、ファンドレイジングコストに対する費用を独立した科目で表示されていることがその表れである。そこで、本稿ではわが国における非営利組織のファンドレイジングコストの位置づけを考えるために、ファンドレイジングコストの定義を明確にし、わが国における公益財団法人及びNPO 法人、さらにアメリカ及びイギリスにおける非営利法人の費用区分を比較検討することで、わが国における今後のファンドレイジングコストに対する財務諸表への表示方法を考えてみたい。

Ⅱ ファンドレイジングコストの概念

 ファンドレイジングコストを検討するにあたっては、まずファンドレイジングコストの概念を明らかにすることが必要である。この節では、ファンドレイジングコストの定義を明確にする。
 アメリカの財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board、以下FASBという)では、ファンドレイジング活動を「ファンドレイジングキャンペーンの宣伝と実施、寄付者のメーリングリストの管理、特別なファンドレイジング活動の実施、資金調達マニュアル・教材の作成と発送、個人、財団、行政機関からの寄付金の勧誘活動、会員獲得活動」(FASB [1993] par.28)と定義している。FASB におけるファンドレイジングコストは、こうしたファンドレイジング活動を行うための費用と定義することができる。さらに、内国歳入庁(Internal Revenue Service)がフォーム990(Form990)の指示書において、ファンドレイジングコストを「寄付、贈与、助成金等の募集に要した総費用」と定義している。この定義からもファンドレイジングは、一般的には寄付金、会費、補助金・助成金などの財源の獲得手段を指すものである。
 わが国における各非営利組織に適用される会計基準において、ファンドレイジングコストの用語を説明しているものはない。ただし、会計基準ではないが、NPO法人会計基準を実務に適用する場合の指針である《Q & A》において、その用語の説明を行っている。
 NPO 法人会計基準の《Q & A》において、「ファンドレイジングとは、個人や企業からの寄付金集め、助成金や補助金などの申請といったNPO 法人の資金集めのための活動のことです。ファンドレイジング費の具体例として、寄付金集めのためのパンフレットなどの制作費、HP 等の広告費、寄付金集めのためのイベント開催費、これらの作業に従事した人の人件費などがあります。この《Q & A》ではNPO の現状を考慮し、特定の事業のために行った活動にかかる費用は事業費、そうでない場合は管理費として説明しています。ファンドレイジング費については、これらを参考に各法人の実態や状況に応じた処理をしてください」(NPO 法人会計基準《Q & A》14-1)と説明している。このため、NPO 法人においては、法人の実態や状況に応じて、特定の事業の寄付金募集及び資金募集のためのファンドレイジングコストは事業費、会費や特定の事業目的でない寄付金募集及び資金募集のためのファンドレイジングコストは管理費として区分することが要請される。
 事業費と管理費を区分する理由は、当該法人の活動内容をより明瞭に表示することができるからである(守永 [1999] 196-197 頁)。守永 [1999] は、「公益法人は設立目的を達成するために諸事業を行う組織体であるから、総支出の50%以上が事業経費として支出されていることが望ましく、この割合が増加するほど健全であるという一応の目安となる」としている。さらに、「事業経費に対する事業収入がどの程度の割合で償っているのか、また管理経費と会費との対応関係、そして事業経費と管理経費の全支出額に対する比率などを考察できる」としている。但し、守永 [1999] の著作の初版は1981 年のものであり、その当時のわが国ではファンドレイジングは耳慣れない言葉であったが、現在ではファンドレイジングは、組織を発展させるための不可欠な要素になりつつある。このため、ファンドレイジングの活動については、今後ますます重要性が高まると思われるので、法人の活動内容をより明瞭に表示する方法を考えなければならない。

Ⅲ 公益法人とNPO法人の費用区分

 非営利組織の法人の中でも、とりわけ公益社団法人・公益財団法人やNPO 法人においては、寄付金が重要な活動資金となる。税額控除の対象となる公益社団法人・公益財団法人は、平成23 年6 月より個人からの寄付金について所得税の税額控除制度1が導入されたことにより、総収入に対する寄付金収入の割合が平成23 年度は15.84%、平成24 年度は14.67%と高くなり、寄付金収入に対する依存率も高い(内閣府 [2013] 6 頁)。また、NPO 法人の特定非営利活動事業に関する収益の財源別構造収益の内訳をみると、認定・特例認定法人2では寄付金の割合が25.7%となっている(内閣府 [2016] 20 頁)。このため、この節ではファンドレイジングコストを公開している公益財団法人とNPO法人の表示方法をみてみたい。

1.公益財団法人の正味財産増減計算書

公益財団法人の正味財産増減計算書

2.NPO法人の活動計算書

NPO法人の活動計算書

 公益財団法人の正味財産増減計算書及びNPO 法人の活動計算書におけるファンドレイジングコストの表示においては、両法人とも特定の事業のために行った活動にかかる費用として事業費に計上されていることが明らかである。

Ⅳ アメリカとイギリスにおける費用区分

 NPO の先進国であるアメリカやイギリスにおいては、「いくら集めるために、いくら使った」というファンドレイジングコストという視点をしっかり持って、その結果を金額的に明らかにしている。さらに、今後の資金計画を行うためのファンドレイジング計画の策定が重要な課題となっている。 アメリカやイギリスではファンドレイジングコストを独立した科目で表示されている。このため、この節ではアメリカにおける活動計算書(Statement of Activities)とイギリスにおける財務活動計算書(Statement of Financial Activities)の事例を示す。

例示1 アメリカにおける非営利組織の活動計算書

活動計算書
20X1年6 月30 日までの1 年間 (単位:千ドル)

アメリカにおける非営利組織の活動計算書

例示2 イギリスにおける非営利組織の財務活動計算書

財務活動計算書
2016年8 月31 日に終る年度 (単位:千ポンド)

イギリスにおける非営利組織の財務活動計算書

 費用の区分については、アメリカでは事業費用(Program services)、経営管理費(Management and general)、ファンドレイジング(Fund raising)に区分表示され、さらに注記でその内訳を示す方法が規定されている。イギリスでは「資金を集める」という言葉が名詞化した資金調達費(Raising funds)という用語を用い、資金調達費、事業活動費(Charitable activities)、その他の費用(Other)に区分表示されている。
 国際的な潮流としては、活動計算書上にプロジェクト費用、管理費、及びファンドレイジング費用などといった機能別分類を示すとともに、注記によってこれらの費目別内訳を追加する実務が広く行われている。ファンドレイジングは、組織を発展させるためには不可欠なものである。このためアメリカやイギリスでは重要な活動費用として、プロジェクト費用や管理費と区分して表示されているのである。

Ⅴ ファンドレイジングコストに関するアンケート調査

 NPO 法人会計基準委員会は、ファンドレイジング活動の現状を含め、NPO 法人や助成団体などの関係者の意見を聞くために、アンケート調査を行った。同委員会は、2017年4 月13 日に開催された第6 回会計基準委員会において、ファンドレイジングコストに関するアンケート調査の結果を報告した。その調査において、18 件(内訳としては、NPO 団体 2 件、NPO 支援センター 6 件、助成財団 1 件、会計専門家 9 件)の回答が得られた。これらの回答から得られた賛否両論の意見は、次のとおりである。

① 賛成論者の見解
・ファンドレイジングコストを認識し、それを管理することで、NPO の発展に繋がる。
・現状において、既に様々な名称や定義でファンドレイジングコストを公開している組織がある(具体例としては、事業費の項目の中で募金活動費等)。これを整理するためにも、開示できる方法が必要である。
・ファンドレイズに係る費用が発生している法人も増えてきているため、その対応が必要である。

・寄付金を集めるのに一定の費用がかかることは当然であり、むしろそのことを正面からとらえて管理し、情報開示することが有意義であること、また単なる資金調達の手段ということではなく、ファンドレイジングは人々に理解を訴え、共感を呼び覚まし、寄付者が資金を提供するという形を通じて、NPO の活動に参加するためのコミュニケーションの一環として積極的にとらえるべきである。
② 反対論者の見解
・ファンドレイジングコストの定義が明らかにされていない。
・ファンドレイジングコストが組織の維持管理に必要な経費を求める費用であるのか、あるいは事業を推進するための費用であるのか、その区分が明らかでない。
・ファンドレイジングコスト、事業費、及び管理費の3 つに区分した場合、共通費用を適切に按分することができない。現状においても、事業費と管理費の按分すらままならない法人も多い。
・ファンドレイジングコストの認識を行うことは、事務負担を増加させる。
・NPO の取り組みも欧米とは差が大きい中で会計だけが海外に習って導入されることは得策ではない。

Ⅵ 結びにかえて

 寄付者及び会員から資源の提供を受けて社会貢献を行う非営利組織の法人が、社会からの信頼を得るためには、適正な会計報告を行うことが重要な要素となる。このため、ファンドレイジングコストについても一般に公開され、寄付者及び会員に対して説明責任を果たすことが必要である。
 ファンドレイジングコストは、寄付金、補助金・助成金などの資源を獲得するための費用である。このため、法人が目的とする事業のコストをあらわす事業費及び法人のガバナンスのための費用をあらわす管理費とは異なる費用である。それゆえに、法人の活動内容をより明瞭に表示するには、アメリカ及びイギリスの財務諸表と同様に、経常費用を事業費、管理費、及びファンドレイジングコストの3 つに区分する必要がある。
 わが国の公益社団法人・公益財団法人及びNPO 法人におけるファンドレイジングコストの表示は、特定の事業のために行った活動にかかる費用として事業費に計上されていることが多いと思われる。その結果、事業費に対する事業収入がどの程度の割合で償っているのかが不明となり、財務諸表の利用者に対して誤解を与える可能性がある。このため、ファンドレイジングコストを区分表示しなければ、法人の活動内容をより明瞭に表わすことができない。
 ファンドレイジングについての活動は、組織を発展させるために不可欠なコストであることから、今後より重要性が増すと思われる。したがって、ファンドレイジングを組織的に行う法人は、経常費用の区分を事業費、管理費、及びファンドレイジングコストの3 つに区分して表示するか、あるいは別途注記によってファンドレイジングコストの内容を明らかにする方法等で対処する必要がある。ただし、こうした経常費用の表示区分を変更することは、会計実務に大きな影響を及ぼすこととなるので幅広い関係者の意見を求め検討されなければならない。

【注】
1 その年中に支出した公益社団法人・公益財団法人に対する寄附金の額の合計額-2 千円)×40%
2 平成28 年法改正により、平成29 年4 月1 日から仮認定NPO 法人は特例認定NPO 法人という名称に改められた。
参考文献
FASB [1993] Financial Statement of Not-for-Profit Organizations, Statement of Financial Accounting Standards No.117.
Larkin,R.F., and DiTommaso M. [2016] Wiley Not-for-Profit GAAP 2016: Interpretation and Application of Generally Accepted Accounting Principles, John Wiley & Sons.
NPO 法人会計基準協議会 [2012]『NPO 法人会計基準[完全収録版 第2 版]』八月書館。
金子良太 [2017]「公益法人・NPO 法人における会計の機能と課題」柴健次編著『公共経営の変容と会計学の機能』253-270 頁。
武田安弘・橋本俊也 [1999]「アメリカにおける非営利組織体の財務諸表の特質 ― FASB財務会計基準書第117 号を中心に―」『経営学研究』第9 巻第1 号、143-161 頁。
内閣府 [2013]「社団法人と公益財団法人の寄附金収入に関する実態調査」。
内閣府 [2016]「平成27 年度特定非営利活動法人及び市民の社会貢献に関する実態調査報告書」。
橋本俊也 [2004]「イギリスにおける非営利組織体の会計 ―チャリティ団体の財務報告を中心に―」『経営学研究』第14 巻第1 号、79-95 頁。
馬場英朗 [2013]『非営利組織のソーシャル・アカウンティング 社会価値会計・社会性評価のフレームワーク構築に向けて』日本評論社。
守永誠治 [1999]「公益法人会計精説〔増補改訂版〕」全国公益法人協会。