我が国における民間非営利組織の会計制度は、主務官庁制を背景に法人形態ごとに策定され、利用者にとっては問題点が多く存在する分かりにくい制度となっている。非営利法人研究学会では、この問題を、2009 年9 月に名古屋大学で開催された第13 回全国大会で統一論題「非営利法人の会計基準統一の可能性をさぐる」として議論して以来、常に重要なテーマの一つとして検討を継続してきた。そのような折り、2014 年、全国公益法人協会から公益法人制度に関する委託研究の打診をいただき、これを受けて、同年9 月、横浜国立大学で行われた第18 回会員総会において本学会内に公益法人会計研究委員会を設置し、同委員会において委託研究の一部を受け持つこととなった。
 公益法人会計研究委員会は、民間非営利組織の会計基準を統一するうえで重要な論点となる事項について、研究者及び専門実務家の共同作業として議論を重ねてきた。本報告書は、将来のありうべき統一会計基準設定に際して設定主体が検討すべき主要な論点を、学術的な視点から提示することを目的としている。
 委員会は、予算の効率的執行の観点から、関東分科会と関西分科会に分けて議論を行い、全体委員会で総括を行うという形で運営してきた。なお全体委員会と二分科会の実務上の調整を行うために別途、事務打合せ会を設置し、作業の効率的遂行に努めてきた。委員会発足後、半年の準備期間の後、2015 年4 月1 日に法政大学一口坂キャンパスにおいて委員11名及び会長並びに事務局3 名からなる第1 回全体委員会を開催し、検討項目及び分科会方式による作業プロセスが承認された。以来、全体委員会で4 回、関東分科会で5 回、関西分科会で6 回の議論を行った。さらに、実務調整の視点から事務打合せ会を4 回実施した。
 本報告書は「総論」及び第Ⅰ部「反対給付のない収益の認識と事業費及び管理費の検討」、第Ⅱ部「企業会計の適用に係る提言と考察」、第Ⅲ部「英米の非営利組織会計と会計構造論」から構成されている。このうち第Ⅰ部は関西分科会で議論し、第Ⅱ部及び第Ⅲ部は関東分科会で議論した。第Ⅰ部は、2015 年4 月1 日に設置された関西分科会の研究成果に係る最終報告である。
 第Ⅰ部では、統一的な非営利組織会計基準の設定を近未来の課題として念頭に置きながら、非営利組織における反対給付のない収益の認識問題の多面的な検討を、主として行っている。反対給付のない収益とは、「対価性のない収益」とも呼ばれ、非営利組織が資源提供者から受領する経済的な見返りを伴わない資源をいう。寄付金、補助金、助成金等が、その代表的な事例である。反対給付のない収益が関係する取引は、非営利組織の組織特性を反映したものであるため、統一的な非営利組織会計基準の設定を目指すうえで、その合理的な認識基準の開発が避けて通れない課題の1 つとなる。
 非営利組織が従たる事業活動として手掛ける収益事業における収益の認識については、原則として、営利企業における認識基準が準用されるであろう。したがって、第Ⅰ部では、収益事業における収益の認識問題は取り扱っていない。
 なお、第Ⅰ部の一部には、平成26〜28 年度科学研究費補助金基盤研究(B)「非営利法人法の再構成―健全な民間非営利活動の一層の促進を目指して―」(課題番号26285025)による研究成果が含まれている。
 第Ⅱ部及び第Ⅲ部は、2015 年4 月1 日に設置された関東分科会の研究成果に係る最終報告である。第Ⅱ部及び第Ⅲ部では、民間非営利組織会計の議論の基本的スタンス、海外の状況、会計構造論及び企業会計で開発された会計基準を民間非営利組織に導入する際の留意点について検討を行っている。民間非営利組織の経済的特性を考慮し、会計構造論や海外の状況を考慮しながら企業会計で開発された会計基準の民間非営利組織適用上の留意点を検討した。なお、第Ⅱ部では5 つの基準が検討されているが、5 つの基準の抽出は、執筆者の専門領域に沿ったものであり、また掲載順序は執筆者の50 音順である。検討上の重要性や緊急性の序列を示すものではない。
 第Ⅱ部は、専門実務家が執筆者の多数を占め、研究者が中心となった関西分科会の第Ⅰ部や第Ⅲ部とは印象が異なると感じられる方もおられると思うが、この点が我が国における民間非営利組織の会計に対する専門実務家と研究者の相違点であり、現実である。お互いが協力して、社会に対する貢献のハーモニーを奏でることの必要性を痛切に感じている。研究活動には、細部にわたる特殊専門的な視点からの分析、鳥瞰する総合的な視点からの分析、社会のよりよい発展方向を科学的に展望した分析の、3 つが求められる。これら3 つの視点からなされた分析作業の成果を取りまとめた本報告書が、そうした研究活動の礎ともなれば、望外の喜びである。
 本学会は20 年を超える歴史を数えるが、本格的な委託研究を手掛けたのは今回が初めてである。この機会を与えてくださった全国公益法人協会の学問の大儀に対する真摯な姿勢と熱意に敬意を表するとともに、厚く御礼申し上げる。
 このたび、本報告書は、全国公益法人協会を通じて、公益・一般法人の関係各位をはじめ社会一般に広く発出されることになった。このことは、研究成果の社会還元という本学会の使命を我々が全うしていくうえで、大きな助けとなるものである。そのような便宜をも図ってくださった同協会に対して、さらなる深甚の感謝を申し上げたい。

平成29年8月3日

非営利法人研究学会会長 堀田和宏
公益法人会計研究委員会委員長 江田 寛
同副委員長 藤井秀樹